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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第13章 失われた背中、残された影


ふと、横を見るとロンが俯いて唇を噛み締めていた。

「……どうしたらいいんだろう?」
ロンの小さな声が、談話室のざわめきを縫うように耳に届いた。


ロンは不安げにハリーのほうを見て、さらに声をひそめる。
「ハグリッドが疑われると思うかい?」


「ハグリッドに会って、話をしなくちゃ」
決意を帯びたハリーの声に、チユは思わず顔を上げた。


「今度はハグリッドだとは思わない。でも……もし、前に怪物を解き放したのが彼だとすれば、『秘密の部屋』への入り方を知ってるはずだ。それが手がかりになる」


「だけど、マクゴナガル先生が言ってただろ?授業のとき以外は、塔から出るなって――」

「いまこそだよ」
ハリーの瞳がぎゅっと光った。
「父さんのあのマントを使うときだ」


「マント……?」その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がちくりと震えた。


(あ……あの透明マントだ!前にドラゴンの赤ちゃんを運んだときの!)


不安と同時に、ほんの少しの安堵も胸に浮かんでくる。
捕まるかもしれない怖さはあるけれど、あのときもなんとかやり遂げられたのだ。


やがて談話室は夜も更け、みんなが寝室へと上がっていく。
炎のぱちぱちと弾ける音だけが残る広間に、チユたち3人は顔を寄せ合った。


「……行こう」ハリーがささやくと、鞄から銀ねず色の長い布を取り出す。


ランプの明かりにふわりと揺れるそれを見た瞬間、チユは思わず息をのんだ。


3人でその布の下にもぐり込むと、視界がふっと揺らぎ、炎の前に立っているはずの自分たちの姿が、影も形もなく消えていった。


布の内側はやっぱり暗くて、息苦しい。しかも――


「…せ、狭い……!」



前に潜り込んだときよりも、肩が押し合わされる。
みんな少しずつ背も伸びて、大きくなったせいだろう。


隣でロンが動くたびに腕がぶつかって、そのたびにチユは小さく肩をすくめた。
ハーマイオニーのときよりも窮屈で、落ち着かない。


ハリーが前を見据えて歩き出す。
ロンが小声で何かぶつぶつ言っている。
その声と自分の鼓動が混じり合って、余計に息が詰まりそうだった。


ぎゅっとローブを握りしめ、チユは2人に遅れまいと足を運んだ。

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