第13章 失われた背中、残された影
マダム・ポンフリーが身をかがめていたのは、長い巻き毛をしたレイブンクローの女の子だった。
そして、その隣のベッドに横たわっていた姿を目にした瞬間、チユの喉はきゅっと塞がれた。
「ハーマイオニー!」
ロンがうめき声をあげる。
ベッドに横たわるハーマイオニーは、まるで時間から切り離されたかのように微動だにせず、見開いた瞳はガラス玉のように光を失っていた。
「…いやだ……」
チユの唇が震える。
声にならない拒絶が胸の奥から溢れてきて、頭が真っ白になった。
何度まばたきしても、夢から醒めるような奇跡は起きなかった。
マクゴナガル先生が静かに言葉を落とす。
「2人は図書館の近くで発見されました」
先生の手に握られた小さな丸い鏡が目に入る。
けれど、チユの目はハーマイオニーから離れなかった。
首を振るしかできないハリーとロンの隣で、チユもただ必死に頭を振った。違う、こんなの嘘だ、そうであってほしい――そう願いながら。
「談話室まであなたたちを送っていきましょう」
マクゴナガル先生の声はいつになく重く、冷たい石の壁にじんと染みていく。
「いや!」
思わず声が漏れた。チユはベッドの傍らに一歩踏み出す。
「ハーマイオニーのそばにいたい……ここに残らせてください……」
マダム・ポンフリーが顔を上げ、柔らかながらもきっぱりと首を振った。
「だめよ。あなたにできることはないの。――心配なのはわかるけれど、今は休ませてあげなさい」
その言葉に胸がずきんと痛む。
抗いたいのに、立ち尽くす足は重く、涙で前がにじんだ。
「……でも……」
絞り出した声も、マダム・ポンフリーの静かな眼差しに押し留められる。
「大丈夫。彼女のそばには私がいるわ」
チユは唇をかみしめ、渋々うなずいた。
ロンとハリーに背を押されるようにして、医務室をあとにする。
談話室への道のりは、まるで夢の中を歩いているようだった。
ロンが隣で黙って歩いているのが心の片隅でわかっていたけれど、チユの思考はハーマイオニーのもとに置き去りにされていた。
どうして石にされてしまったの。
どうして助けてあげられなかったの。
胸の奥に黒い霧が渦を巻いて、足取りは重くなるばかりだった。
やがて談話室に戻ると、生徒たちはすでに集められていて、空気は、ざわめきと不安で張り詰めていた。
