第13章 失われた背中、残された影
「全生徒はそれぞれの寮の談話室に戻りなさい!監督生から詳しい話があります!」
先生の言葉に、スタンド中がざわざわと揺れた。
クィディッチを楽しみにしていた生徒たちは不満をぶつけ、心配そうな顔で友達と話す子もいる。
チユは胸の鼓動が速くなるのを感じていた。
(試合が中止になるなんて……ただ事じゃない……)
そのとき、マクゴナガル先生が人混みの中のハリーに目を留め、手を挙げて呼んだ。
「ポッター!いらっしゃい!」
ハリーがぎこちなく立ち上がり、群衆の間を進んでいく。
(なんでハリーが……?)
チユは胸をざわつかせながらその背中を見送った。
すると、人の波をかき分けてロンが慌てて前に出る。
「先生!僕も!」
マクゴナガル先生はほんの一瞬ためらったようだったが、すぐに鋭い目を光らせて言った。
「そうですね……ウィーズリー、そしてクローバー。あなたたちも一緒に来た方がよいでしょう」
「えっ……!」
自分の名前が呼ばれるなんて思いもしなかったチユは、立ち上がった瞬間、足がもつれそうになる。
ロンに軽く腕を引かれ、ようやく群衆を抜け出して先生のあとに続いた。
(――嫌な予感がする……何か、とても大きなことが起きたんだ)
大理石の階段を上がりながら、チユはロンと顔を見合わせた。
ハリーの顔は土気色に青ざめていて、チユは何か声をかけたかったが、喉が固くなって言葉が出てこない。
やがて医務室の前に着いた時、マクゴナガル先生がふっと柔らかい声を出した。
「少しショックを受けるかもしれませんが……」
その声音に、チユの心臓がきゅっと縮んだ。
「また襲われました。今度も――2人一緒にです」
ドアが開かれた瞬間、チユは一歩も動けず、冷たい風に吹かれたみたいに立ち尽くした。