第13章 失われた背中、残された影
翌朝、目を覚ますと、窓の外にはきらめくような日差しが降り注ぎ、さわやかなそよ風がカーテンを揺らしていた。
朝が弱いチユにとっては一番つらい時間だ。
目をこすりながら大広間に来たものの、皿に乗せたトーストはほとんど減っていない。
――まだ眠い……。食欲もない……。
隣でロンがベーコンを頬張るのを眺めていると、余計に胃が重たく感じられる。
大広間での朝食はいつもより活気づいていて、グリフィンドール生の笑い声とざわめきが飛び交っていた。
「申し分ないクィディッチ日和だ!」
ウッドが、仲間の皿にスクランブルエッグを山のように盛りつけながら、声を張り上げる。
チユはうっすら目を開けてそれを見やり、そんなに盛られても食べきれるのかと心配になる。
だが、ウッドの顔はまるで勝利をすでに掴んでいるかのように晴れやかだった。
「ハリー、がんばれよ。朝食をちゃんと食っておけ」
ウッドの言葉に、ハリーは曖昧な笑みを浮かべながら頷いた。
けれど、その瞳がちらちらと周囲を探るように動いているのを、チユは見逃さなかった。
――きっと、あの日記のことが気になって仕方ないんだ。
彼が気に病んでいる理由は、チユもよくわかっていた。
日記の持ち主が新たに誰かの手に渡ったとしたら……その人物は、この大広間に座っているかもしれないのだから。
ハーマイオニーは、盗難を先生に報告すべきだと勧めていた。
けれどハリーは頑なに首を振る。
(無理もないよね……先生に言えば、日記の秘密を全部話さなきゃいけなくなるし……)
チユは唇を噛んで、心の中で彼に寄り添った。
やがて食事を終え、チユはハリー、ロン、ハーマイオニーと一緒に大広間を出た。
ハリーが箒を取りに戻ろうと大理石の階段に足をかけた、そのときだった。
「またあの声…!!」
ハリーが突然叫び声を上げ、チユはびくっと肩を震わせた。
「な、なに……!?」
ロンもハーマイオニーも驚いて飛び退いたが、チユには何も聞こえていない。ただ、ハリーの顔が恐怖に引きつっているのがはっきりわかった。
「また聞こえたんだ…!今度は殺すって……」ハリーは必死に言う。「君たちには!?」
ロンは目を見開いたまま首を横に振り、ハーマイオニーも同じように否定する。
「わ、わたしには…何も……!」チユも慌てて首を振った。
