第13章 失われた背中、残された影
(前にゼロが「魔法生物学者になりたい」って教えてくれたときも、少しだけ目が輝いてたな……)
その光景がふいに頭に浮かび、チユの胸がじんわりと温かくなる。
気づけば、自然と笑みがこぼれていた。
「じゃあ、私もそれにしようかな。一緒だと、楽しそうだから……」
そう言うと、ゼロの頬にほんのり赤みが差した。
「でもね、私、昔から動物にはあんまり好かれなくて……。近づくとすぐ逃げられたり、吠えられたりしちゃうんだ。本当は向いてないかもって思ってた」
チユは少し照れくさそうに肩をすくめる。
ゼロは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに柔らかく微笑んだ。
「向いてないなんてこと、ないと思う。だって君、とても優しいじゃないか」
「優しくしてるつもりなんだけど……なかなか伝わらなくて」
チユは少し肩を落とす。
ゼロは少し照れたように目を逸らしながらも、はっきりと言った。
「僕にはちゃんと伝わってるよ。……君と一緒にいると、すごく優しい気持ちになるんだ」
その言葉に耳まで赤くなったチユは、慌ててリストに印をつける。
ゼロが小さく笑った瞬間、普段は見せない柔らかい表情に、チユの心臓はさらに忙しく跳ねた。
どうしてこんなに胸が熱くなるのか、チユ自身でもわからなかった。
ゼロの声、笑顔、ちょっとした仕草のすべてが、胸に触れるように感じられる。
その気持ちは、誰にも言えないけれど、今はただ、ゼロのそばにいられることが嬉しくて仕方がなかった。
優しさや温かさとは、こういうことなのだと、チユは心の奥でそっと実感していた。