第12章 秘密の日記
その夜の談話室は、いつもよりざわついていた。
昼間の事件がまだみんなの話題になっていて、誰もが少し浮き足立っているようだった。
チユは火のそばのソファに座り、膝を抱えてジニーの隣に寄り添っていた。
ジニーはうつむき、膝の上でぎゅっと拳を握りしめている。
「…恥ずかしくて、もう死んじゃいそう」
ジニーの声は小さく震えていた。
チユは彼女の手をそっと包み、首を振った。
「あの歌、ジニーの気持ちがまっすぐ伝わって、とてもきれいだったよ」
ジニーはうつむいたまま、涙をこぼしそうにしていたが、その言葉に少しだけ表情を和らげた。
そんなやりとりを遠目に、フレッドとジョージが背もたれに肘をかけてこちらを覗き込んでくる。
2人は顔を見合わせ、にやりと笑うと、急に声をそろえて歌い出した。
「あなたの靴下は片方穴あき~、勇敢な戦士の証拠だね~♪」
「あなたの髪にはチョコのかけら~、甘党の王子にふさわしい~♪」
談話室中に大きな笑いが起こる。
ハリーは顔を真っ赤にしながら立ち上がり、さっさと階段を上っていった。
ジニーは顔を手で覆い、チユが「やめてよ!」とクッションを投げつけた。
それを軽やかに受け止めたジョージは、わざと胸に抱きしめる仕草をしてみせる。
「おっと、お姫様の登場だな」
「さあ、お嬢さん、君の番だ」
2人はチユの前に並び、からかうように歌い始めた。
「チユの杖はよく転ぶ〜でも持ち主はとびきり可愛い~♪」
「授業で寝たらすぐにばれる〜でも笑顔は100点満点~♪」
談話室にまた笑いが弾ける。
けれど、言葉の端にほんのり混ざった甘さに、チユの頬はふいに熱くなった。
双子は勝ち誇ったようにウィンクを交わし、歌を締めくくる。
「君が僕のものならいいのに、だって君は最高〜♪」
フレッドがその場をさらうように、わざとらしく大声を張り上げる。
「さーて!本日のリサイタルはこれにて終了!」
「明日のアンコールは、きっとジニーが歌ってくれるだろう!」
談話室がまた爆笑に包まれ、ジニーが「歌わない!」と叫ぶ。
その隣で、チユは両手で顔を覆ったまま、小さく笑っていた。
怒りたいのに、笑ってる双子を見ているとどうしても笑みがこぼれてしまう。
胸の奥がくすぐったくて、悔しくて、ちょっとだけ嬉しかった。