第12章 秘密の日記
あなたの目は緑色、青いカエルの新漬けのよう。
あなたの髪は真っ黒、黒板のよう。
あなたがわたしのものならいいのにあなたはすてき。
間の帝王を征服した、あなたは英雄──。
チユは頬を赤らめた。思わず顔を伏せたくなるようなフレーズに、周囲の生徒たちは爆笑し、笑いの渦が廊下を揺らす。
胸がきゅっと縮んだ。もし自分だったら、その場から煙のように消えてしまいたい。
けれど、ハリーは勇気を振り絞るように立ち上がり、ぎこちなく笑ってみせた。
「さあ、もう行った、行った。ベルは5分前に鳴った。すぐ教室に行くんだ。マルフォイ、君もだ」
パーシーが生徒たちを散らしにかかる。
散り始める人垣の中、チユはマルフォイの動きに気づいた。彼が床から何かを拾い上げ、クラッブとゴイルに見せびらかしている。
それがリドルの日記だと理解した瞬間、チユは思わず息を呑んだ。ハリーも同じことに気づいたらしい。
「それは返してもらおう」
低い声で告げるハリーに、マルフォイは口の端を吊り上げる。
「ポッターはいったいこれに何を書いたのかな?」
見物人たちは一瞬で静まり返った。
ジニーの顔はひきつり、震える手で口元を押さえながら、日記とハリーを交互に見つめている。
「マルフォイ、それを渡せ」
パーシーの声は厳しかった。
だがマルフォイはわざとらしく肩をすくめ、日記を振ってみせる。
次の瞬間だった。
「エクスペリアームス!」
ハリーの杖が閃き、日記はマルフォイの手を離れて宙を舞い、ロンの手に収まった。ロンは得意げに笑ってみせる。
「ハリー!」
パーシーの叱責が鋭く飛ぶ。
「廊下での魔法は禁止だ!これは報告しなくてはならない!」
チユは思わず胸を押さえた。
けれどハリーの表情は、怒りを抑えきれないマルフォイとは対照的に、妙に晴れやかに見えた。
ジニーが通り過ぎようとしたとき、マルフォイがわざとらしく叫んだ。
「ポッターは君のバレンタインが気に入らなかったみたいだぞ!」
ジニーは両手で顔を覆い、教室へ駆け込んでいった。
その背を見つめるチユの胸に、針のような痛みが走る。
笑い声の余韻が廊下に残り、チユは足を一歩も動かせずに立ち尽くしていた。