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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第12章 秘密の日記



ハーマイオニーは数週間、医務室で過ごすことになった。
ポリジュース薬の影響で猫の姿に変わったまま、顔の毛がすべて抜け落ちるまでには思ったよりも時間がかかった。

クリスマス休暇を終えて戻ってきた生徒たちは、当然のように「ハーマイオニーは襲われた」と噂した。
姿を見せないだけで、不安や憶測はどんどん膨らんでいった。

ちらりとでも彼女の様子を見ようと、医務室の前には入れ代わり立ち代わり生徒が訪れた。

マダム・ポンフリーは、毛むくじゃらの顔が人目に触れたら恥ずかしいだろうと考え、例によってカーテンでハーマイオニーのベッドの周囲をぐるりと囲ってしまった。


ハリーとロンは、新学期が始まってからも毎日夕方に見舞いに通った。
その日の宿題を届けることも欠かさなかった。

そして、その少し後ろから、チユも必ず足を運んだ。


彼女はいつも入口のあたりで立ち止まり、声をかけるタイミングを何度もはかってから、そっとベッドのそばに近づいた。
医務室の冷たい空気が、まるでひとつの儀式のように感じられた。


最初のころは、姿を見せないハーマイオニーに声をかけることもためらった。
けれどある日、カーテン越しに小さな声で「チユ……ありがとう」と呼ばれたことで、彼女はベッド脇の椅子に腰をおろせるようになった。


「お薬、苦くない?」

「……大丈夫。平気よ」


「本読もうか?今日は“千の魔法薬と薬草”持ってきたんだ。眠くなるやつ」

「……ちょっとだけ、読んで」


そんなふうに、ハーマイオニーが声を返す日は、チユの胸もほんの少しあたたかくなるのだった。


ある晩、ロンがベッドの脇机に、本をひと抱えドサッと落としながら言った。



「ひげが生えてきたら、僕なら勉強はお休みするなあ。堂々と!」

「バカなこと言わないでよ、ロン。遅れないようにしなくちゃ」


元気な答えだった。

顔の毛はきれいに消え、目の色も少しずつ戻ってきていた。
ハーマイオニーの気分も、日ごとに明るくなってきていた。


「……何か新しい手がかりはないの?」


マダム・ポンフリーに聞こえないよう、ハーマイオニーがひそめた声で尋ねる。

ハリーが首を振る。

「……なんにも」
憂鬱そうな声だった。


「絶対、マルフォイだと思ったのになあ」

ロンはその言葉をもう100回は繰り返している。
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