第11章 ポリジュース薬の完成
医務室の扉を押し開けると、マダム・ポンフリーがちょうど棚に薬瓶を並べているところだった。
「またあなたたち?いったい今度は――」
振り返った彼女は、ハーマイオニーの顔を見た瞬間、言葉を失った。
「まあ……入ってらっしゃい!」
ハーマイオニーはうつむいたまま、無言で医務室に足を踏み入れた。
チユもついて行こうとしたが、マダム・ポンフリーが手を挙げて制した。
「あなたたちは、寮に戻りなさい」
その声音に逆らえず、3人は名残惜しそうにハーマイオニーを見送り、医務室を後にした。
チユは、うつむいたままのハーマイオニーの背中が目に焼きついて離れなかった。
猫の顔、震える指、肩の重み――全部が、彼女の勇気の証だった。
「…それで、何か聞けた?」
ロンがうなずいた。
「まあ、うん。こっちがゴイルになってる間、アイツ、けっこう喋ったよ」
「言ってたのは、例の怪物のこと」ハリーが続けた。
「『怪物はスリザリンの継承者のもの』って。自分じゃないって言ってたけど、継承者は“ホグワーツにいる”って」
チユは思わず息を呑んだ。
「本当に……怪物がいるんだ。しかも、まだ動いてる」
ロンが肩をすくめる。
「マルフォイは、継承者が誰かは知らないみたいだった。言ってたのは、昔、秘密の部屋が開いたときにも生徒が襲われたってことくらい。なんでも、犯人は学校を追い出されたとか」
「えっ、前にも開いてたの…?」
「うん。でも、誰が犯人だったのか、マルフォイも知らないって」
ハリーの声には、疲れと焦りが混じっていた。
「ただマルフォイの親父はその時の事を誇らしげに語ってるらしい『一掃して当然』だって」
「…一掃……」
チユは小さく呟いた。
血筋。偏見。恐れ。ゼロがマルフォイと距離を取った理由も、その中にあったのかもしれない。
「ごめん。私は、何も聞き出せなかったの……」
俯いたチユに、ロンがあわてて手を振った。
「そんなの、しょうがないって。俺なら吐いてたぞ……グレインの姿でマルフォイと話すなんて無理」
「でも、はっきりした。怪物はいる。継承者もどこかにいる。そして、秘密の部屋も存在してる」
3人は階段を静かに上がっていった。
遠くから、時計の鐘が低く鳴り始める。
物語が、ゆっくりと核心に近づいていく音だった。