第2章 秘密の夏休み
チユは息を整えながら、隣で肩を上下させているハリーの顔をちらりと見た。
「……ハリー、無事でよかった」
「みんな……ありがとう」
ハリーの声は震えていた。でも、その目は少し笑っていた。
後部座席はチユ、ロン、ハリーの3人がぎゅうぎゅう詰めで並んでいた。
「ちょっと……ロン、肘が……!」
「ご、ごめん。でも動けない!」
「私、これ以上押されたらドアの外に落ちちゃうよ……!」
狭い車内で押し合いへし合いしながらも、みんなの顔には安堵の色がにじんでいた。
「パパからハリーがマグルの前で魔法を使ったってことで、魔法省から正式に警告が来たって聞いたんだけど。本当かい?」
「えっ……!?」
チユが目を丸くする。
「違うよ!」
ハリーが慌てて手を振る。
「僕じゃないんだ……話すね、全部」
そう言って、ハリーはゆっくりと話し始めた。
屋敷しもべ妖精・ドビーの突然の訪問――ホグワーツには罠が仕掛けられているから戻るなという警告。
それから、勝手にケーキを浮かせて落とし、マグルの前で魔法を使ったことにされた件。
そしてその直後に届いた、魔法省からの厳しい警告の手紙。
「そんなことが……」
チユはぽつりとつぶやく。
「僕がやったわけじゃない。でも、マグルの前で魔法を使ったことになって……本当に焦った。ホグワーツに戻れないかと思った」
「……戻れてよかったよ、本当に」
ロンがハリーの背中をぱん、と軽く叩く。
「まったく、怪しいな」
ジョージが口を開いた。
「それじゃ、ドビーは、いったい誰がそんな罠を仕掛けてるのかさえ教えなかったんだな?」
「教えられなかったんだと思う。いまも言ったけど、もう少しで何かもらしそうになるたびに、ドビーは壁に頭をぶっつけはじめるんだ」とハリーが答えた。
「もしかして、ドビーが僕にうそついてたって言いたいの?」
フレッドとジョージが顔を見合わせたのを見て、ハリーが聞いた。
「ウーン、なんと言ったらいいかな」フレッドが答えた。
「『屋敷しもべ妖精』ってのは、それなりの魔力があるんだ。だけど、普通は主人の許しがないと使えない。ドビーのやつ、ハリーがホクワーツに戻ってこないようにするために、送り込まれてきたんじゃないかな。誰かの悪い冗談だ。学校でハリーに恨みをもってるやつ、誰か思いつかないか?」