第11章 ポリジュース薬の完成
「な、なにか……ミリセントの鼻とか、まだくっついてるのかい?」
ロンがためらいがちに声をかけた。
ハーマイオニーは震える手で、ゆっくりとフードを下ろした。
その瞬間、ロンがのけぞり、足を滑らせて手洗い台に尻もちをついた。
ハーマイオニーの顔は黒い毛で覆われ、目は金色に光っていた。
髪の間からは、長く尖った三角の耳が突き出している。
「あれ、ね……猫の毛だったの!!」
ハーマイオニーが泣きながら叫んだ。
「ミ、ミリセント・ブルストロードは、きっと猫を飼ってたのよ!そ、それに……この煎じ薬は、動物に使っちゃいけないの!」
チユはそっと彼女に歩み寄り、黙って背中に手を添えた。
「だいじょうぶ。すぐに先生に診てもらおう。きっと元に戻れるよ」
「う……うん……」
涙をこらえながら、ハーマイオニーは何度もうなずいた。
嘆きのマートルは天井でくるくると回りながら、愉快そうに笑い続けていたが、チユは彼女に一瞥もくれなかった。
今はただ、ハーマイオニーの震える肩を、しっかりと支えていた。
「医務室に連れていこう」
ハリーが静かに言った。
ロンも無言で立ち上がり、手洗い台で手をぬぐうようにしてから頷いた。
チユはハーマイオニーのそばを離れず、その肩にそっと手を添えた。
ハーマイオニーの体は小刻みに震えていたが、それでも、ゆっくりと一歩ずつ前に進もうとしていた。
「…自分のせいなの、わかってる。ちゃんと煎じ薬の使い方、調べたはずなのに……」
「そんなことないよ、ハーマイオニー。君がいなかったら、僕たちは薬ひとつ作れなかった」
ハリーの言葉に、2人が頷いた。
「本当だよ。君、材料から調合まで全部やってくれたじゃないか。ぼくとハリーなんか、毒でも盛りそうだったんだからさ」
その言葉に、ハーマイオニーはほんの少しだけ、口元をゆるませた。
けれどその顔はやはり、猫のままだった。
トイレを出て、夜の廊下をできるだけ足音を立てずに歩く。
誰にも見つからないように――それはポリジュース薬を使ったこと以上に、猫になってしまったハーマイオニーの姿を見られたくなかったからだ。