第11章 ポリジュース薬の完成
誤解もあった。
偏見もあった。
でも何より、マルフォイは「ゼロ・グレインはスリザリンに入るべきだった」という確信から、彼を“裏切り者”のように見てしまったのかもしれない。
それ以来、2人は口をきくことも少なくなった。
そして今日、久しぶりに2人きりで向き合ったというのに、マルフォイはまるで、ゼロを“正しい枠に戻す”かのように語っていた。
チユは心の中で、そっと拳を握りしめた。
ゼロという仮面をかぶりながら、その名が、他人の価値観だけで語られていく。
そのことに、抗う術を持たず、ただ黙って見ているしかない自分――
けれど、どこかでそれを許せない自分が、確かにいた。
(ゼロは、あんなふうに決めつけられるような人じゃない)
たとえそれがマルフォイであっても。
たとえ自分が、ゼロではなくても――
けれど今は、ただ――演じきるしかない。
「組み分けなんて、どうでもいいよ。僕は……僕だ」
その言葉が、ゼロの声で静かに響いた。
マルフォイの目に、一瞬、感情の揺れが走った。だが、それもすぐに消える。
「……らしいな」
それだけを言い残し、マルフォイは踵を返した。
コートの裾が音もなく翻る。足音を立てず、彼は廊下の闇の中へと消えていった。
残されたチユは、その場に立ち尽くしたまま、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥に、ゼロという名前が――重く、沈み込んでいた。
(……ちゃんと、話せたかな)
ゼロになりきることで頭がいっぱいで、肝心の“秘密の部屋”のことは何ひとつ聞けなかった。
気づけば心はずっと、ゼロとマルフォイのあいだにあった言葉に囚われていた。
ほんの少し、彼のことがわかった気がした。
自分の知らないゼロ――
彼がどうしてグリフィンドールで孤立していたのか、なぜマルフォイと言葉を交わさなくなったのか、その答えの一端を、垣間見た気がする。
そして――マルフォイは、最後までチユの正体に気づかなかった。
ということは、クラッブとゴイルに変身したハリーとロンのことも、きっと見破られないはずだ。
(…頑張って、2人とも……!)
石畳の冷たさが足元からじわりと伝ってくる。
でもそれよりも、今、自分の心の奥に落ちた静けさの方が、ずっと冷たくて、少しだけ――あたたかかった