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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第11章 ポリジュース薬の完成



誤解もあった。
偏見もあった。
でも何より、マルフォイは「ゼロ・グレインはスリザリンに入るべきだった」という確信から、彼を“裏切り者”のように見てしまったのかもしれない。


それ以来、2人は口をきくことも少なくなった。
そして今日、久しぶりに2人きりで向き合ったというのに、マルフォイはまるで、ゼロを“正しい枠に戻す”かのように語っていた。


チユは心の中で、そっと拳を握りしめた。


ゼロという仮面をかぶりながら、その名が、他人の価値観だけで語られていく。
そのことに、抗う術を持たず、ただ黙って見ているしかない自分――
けれど、どこかでそれを許せない自分が、確かにいた。


(ゼロは、あんなふうに決めつけられるような人じゃない)


たとえそれがマルフォイであっても。
たとえ自分が、ゼロではなくても――


けれど今は、ただ――演じきるしかない。


「組み分けなんて、どうでもいいよ。僕は……僕だ」


その言葉が、ゼロの声で静かに響いた。
マルフォイの目に、一瞬、感情の揺れが走った。だが、それもすぐに消える。


「……らしいな」


それだけを言い残し、マルフォイは踵を返した。
コートの裾が音もなく翻る。足音を立てず、彼は廊下の闇の中へと消えていった。

残されたチユは、その場に立ち尽くしたまま、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥に、ゼロという名前が――重く、沈み込んでいた。


(……ちゃんと、話せたかな)


ゼロになりきることで頭がいっぱいで、肝心の“秘密の部屋”のことは何ひとつ聞けなかった。
気づけば心はずっと、ゼロとマルフォイのあいだにあった言葉に囚われていた。


ほんの少し、彼のことがわかった気がした。
自分の知らないゼロ――
彼がどうしてグリフィンドールで孤立していたのか、なぜマルフォイと言葉を交わさなくなったのか、その答えの一端を、垣間見た気がする。


そして――マルフォイは、最後までチユの正体に気づかなかった。
ということは、クラッブとゴイルに変身したハリーとロンのことも、きっと見破られないはずだ。


(…頑張って、2人とも……!)


石畳の冷たさが足元からじわりと伝ってくる。
でもそれよりも、今、自分の心の奥に落ちた静けさの方が、ずっと冷たくて、少しだけ――あたたかかった
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