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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第11章 ポリジュース薬の完成



「前にもあっただろ。僕のノートを間違えて持って帰ったとか」

「……覚えてたんだ」


チユは思わず、そう返してしまった。
ゼロならどう返しただろう。無言で流すか、あるいは冷たく遮るか――
でも、そのどちらも、今の自分にはできなかった。



「忘れるわけないだろ。お前、何もなかった顔して“字が下手すぎて読めなかった”って言ってたじゃないか」


マルフォイは苦笑しながら、ほんの少しだけ顎を引いた。



「……あのときと、変わってない」



チユは黙って、ただその言葉を胸の奥に沈めた。


それから、マルフォイは一歩、こちらへと足を踏み出す。
その視線は真っすぐだった。まるで探るのではなく、すでに知っている者として確かめに来るような――そんな眼差し。


「……お前がグリフィンドールに入れられたときは、本当に驚いたよ」


その声音には、確かに、侮蔑がにじんでいた。


「スリザリンに入るべきだった。お前は――いや、“ゼロ・グレイン”は、そういう人間だ。強さを隠して、賢さで切り捨てる。周囲に合わせず、誇りを曲げない。純血の家系はそうでなければならない。あれは――組み分けの間違いだった」


(ゼロは……本当に、そういう人だろうか……?)


マルフォイの言うような、誇り高く冷静で、誰も寄せつけずに他人を切り捨てる人間――
けれど、少なくともチユの知っているゼロは、そうではなかった。

誰よりも静かに優しくて、
誰よりも深く、傷ついている。
その痛みを、誰にも気づかれないように隠して、それでもなお、前を向こうとしていた少年。


リーマスと彼は、どこか似ている気がした。
それは人狼だからではない。


その静けさの裏に、剥き出しの痛みと孤独を抱えているところ。
それでも、誰かを傷つけたくないと願ってしまう弱さと、優しさを、どちらも併せ持っているところ。


マルフォイの目に映るゼロと、チユが知るゼロは、まったく違っていた。


かつてはきっと、マルフォイにとってもゼロは特別な存在だったのだろう。
純血の家同士、幼い頃から近しい距離にいた2人は、どこか似たものとして育てられてきたのだろう。
だが、ゼロがホグワーツでグリフィンドールに組み分けされたとき――その関係は、静かに崩れた。
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