第11章 ポリジュース薬の完成
そのとき、別の個室のドアが開いた。
ゴゴッと重たい足音とともに、クラッブとゴイルが――いや、ハリーとロンが現れた。
「うえぇ……最悪だ、この味……」
ロンの声は低くて太く、聞き慣れない響きだった。
チユは口を開けかけて、けれど声が出なかった。
「俺、ちゃんとクラッブになってるよな……ハリー?」
「うん、君は完璧だよ……」
ロンとハリーが顔を見合わせたあと、チユに目を向けた。
「……え?」
ロンもつられて振り向いた。
そして、2人の目が揃って見開かれた。
「おい、なんでグレインなんだよ!?」
クラッブの姿をしたロンが叫ぶ。
チユは心臓をわしづかみにされたような気持ちになって、反射的に言い返す。
「わ、わたしだって聞きたいよ……!」
声は低くて、震えていた。ゼロの声だ。自分の声じゃない。
チユはローブの裾をぎゅっと握った。
ハリーとロン――いや、クラッブとゴイルの姿の2人は、あ然としてチユを見ていた。
「チユ、どういうこと……髪の毛、間違えたの?」
「たぶん……ぶつかったときに取ったと思ってたけど、私のローブについてたの……きっと、その前から……」
チユは言葉を切り、ゼロの姿で鏡の自分をちらりと見やった。
完璧な顔。氷のような瞳。艶のある黒髪。
さっきまで自分だったのが、いまは、誰よりも遠い人の顔をしている。
「案外そのまま入れるんじゃない?」
ロンが、呑気にチユを見ながら言った。
「え?」
チユ――いや、今はゼロそっくりの姿をしたチユが、ぴくりと肩を揺らす。
「グレインはスリザリン顔だしさ。というか、なんか……その緑のローブ、グリフィンドールのより似合ってる気がするんだけど……」
「な、何言ってるの!? 無理に決まってるでしょ!」
チユは半泣きの声で言いながら、自分の黒い髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。
「でもさ……ゼロって、マルフォイと幼なじみなんだよ。だったら、ちょっとぐらい話しかけても変じゃないかも」
チユがごそごそと袖を直しながら言った。
「だったら、案外それを使えば何か聞き出せるかも。談話室に入れなくても、廊下でマルフォイを捕まえれば――」
チユは俯いたまま、靴のつま先を見つめる。