第11章 ポリジュース薬の完成
その日の談話室の夜は、何だか不思議な静けさに包まれていた。
チユは、暖炉の前にひとり腰をおろしていた。
まだ部屋に残るみんなの笑い声の余韻。にぎやかだった時間が、名残惜しいように漂っていた。
火のゆらめきをぼんやり見つめながら、ふと、チユは空を見上げた。
少しだけ、胸がきゅっとなる。
(リーマス、も今頃1人で見てたりするかな。……風邪、引いてないといいけど)
「おーっと、お姫様が黄昏れてらっしゃる〜〜」
突然背後から聞こえた声に、チユはびくっと肩を跳ねさせた。
「び、びっくりした! 静かに歩かないでよ」
「いやいや、姫の思索の邪魔にならぬよう、慎ましく参上しただけです」
ジョージはにやっと笑って、隣に腰を下ろした。
しばらくの沈黙の後、チユは言いにくそうに口を開いた。
「……リーマスのこと、考えてたの」
「やっぱり」
彼は火のほうを見ながら、肩をすくめた。
「チユがこうやってホグワーツで元気でいてさ、ちゃんと笑ってたら……きっと安心すると思うよ」
チユはうなずいた。けれど、胸の奥がきゅっとなったまま、うまく言葉にならなかった。
ジョージは続けた。
「ま、チユが元気ないと俺も、フレッドもつまんないしね」
「……ありがとう」
小さくそう呟いたチユに、彼は「どーいたしまして」と調子を合わせて笑った。
「みんなはもう寝た?」
「うん。フレッドは鼻鳴らして爆睡中。パーシーは監督生の“使命”とか言って書類整理してたけど、途中でこっくりいってた。ロンとハリーは何かゴニョゴニョやってたな〜。あやしいやつらだ」
「ふふっ」
暖炉の火が、パチパチと小さな音を立てる。
ジョージはしばらく黙って火を見ていたけれど、ふいに、ぽつんと言った。
「ねえ、チユ」
「うん?」
ジョージの声が、いつになく優しかった。
「火の前で2人きりってさ……ちょっと特別な感じしない?」
チユは不思議そうに首をかしげた。
「何が?」
「いや……その、さ。だから――この先、ちょっとだけ君のことを、特別に思っても……怒らない?」
一瞬、時間が止まったような気がした。
チユは、ほのかに赤くなった頬を隠すようにして、そっぽを向いた。
ジョージはぴくりと反応したものの、顔はそむけたまま。