第2章 秘密の夏休み
「ハリー、いるかな……」
チユがつぶやくと、ロンがすっと身を乗り出す。
「ハリーの部屋は2階だ。あそこの窓だ」
車がそっと窓の前で静止する。
「というか、なんだこれ。大変、趣味がお悪いことだ」
フレッドが眉をひそめて、窓を見る。
「ああ、フィルチの寝室くらい趣味が悪い」
ジョージが腕を組んで、ため息をついた。
「やめろよ、想像しちまっただろ」フレッドが小突く。
ふと見れば、ハリーの部屋と思われる窓には、しっかりと鉄格子がはめられていた。
「なにこれ……」
チユが小さく声を漏らす。
「まさか……ハリー、これって……監禁されてたの?」
声が震える。
ジョージの目が鋭くなる。
フレッドも、ふざけた調子をすっと引っ込めて、真剣な声で言った。
「やっぱり、嫌な予感は当たったな。こりゃただの軟禁じゃない」
「牢屋じゃねえか、これ」
「合図してみようよ」
ロンが言うと、フレッドがポケットから取り出したキャンディを窓に投げつけた。
コツンッ!
中のカーテンが動いた。
一瞬の静寂のあと、その窓に現れたのは、驚きの表情を浮かべた――
「ハリーだ!」
ロンが嬉しそうに声を上げる。
「本当にいた……!」
チユの顔にもぱっと笑顔が広がった。
暗い夜の中で、ハリーの姿を見つけた瞬間、それまで胸につかえていた不安が一気に晴れていくようだった。
「よっ!監禁プリンス!」
フレッドがいつもの調子で手を振る。
「出所祝いに来てやったぞー!」
ジョージも助手席から身を乗り出して叫ぶ。
チユも思わず手を振った。
窓の向こう、ハリーがぽかんと目を見開いて、すぐに駆け寄ってくる。表情には驚きと、そして信じられないような安堵が浮かんでいた。
「皆、どうして!?」
「どうしてって、迎えに決まってるじゃないか!」
「手紙も返ってこないし、すごく、心配してたんだよ!」
チユが少し顔を赤くして慌てて言うと、ハリーがぱっと笑って、でもその目にはほんの少し涙がにじんでいた。
「ありがとう……ほんとに……!」
けれど、その背後から怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやら、ダーズリー一家が気づいたようだった。
「やばい、早く鉄格子を外さないと!」ロンが言う。