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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第2章 秘密の夏休み



夜が深まり、隠れ穴の家中が静まり返った頃。
フレッドとジョージ、ロン、チユは、靴を忍ばせながら納屋へと向かっていた。


「よし、静かにね。母さんには絶対バレないように」


ジョージが囁き、フレッドが納屋の扉を開ける。中にあったのは、すこし年季の入った、でもどこか可愛げのあるフォード・アングリアだった。

月明かりの下、その車はぼんやり青く光って見えた。


「これが……空、飛ぶの?」


チユが小さく声を漏らすと、ロンが得意げにうなずいた。

「うん。でも正直、うまく着地できるかはわかんない」

「おいおい、そこは自信持ってくれよ」
フレッドが笑いながら助手席に乗り込む。


ジョージが運転席、チユとロンは後部座席へ。
エンジンをかけようとしたそのとき――

「……ちょっと待って。免許、あるの?」
チユが眉をひそめて小さく訊いた。


ジョージは振り返って、にっこり。


「免許?もちろんないとも!」

「違うよジョージ、あるって言ってやるのが礼儀だろ」フレッドが笑いながら肩をすくめる。


「そうか、それなら……あるよ、心の免許が!」


「……それ、つまり“ない”ってことだよね?」


チユの呆れた声に、双子は声を揃えて、


「ま、飛んじゃえばこっちのもんさ!」


そう言って、ジョージが勢いよくエンジンをかけた。
車のエンジンが低く唸りを上げ、ゆっくりと宙に浮かび始める。

「うわ……ほんとに飛んでる」
チユが窓から見下ろしながら声を上げた。

隠れ穴がどんどん小さくなり、草原と森の風景が夜の闇の中に沈んでいく。
星空が一面に広がって、昨夜リーマスと見上げた夜空をふと思い出す。


「ねえ、マグルに見つかったりしないの?」
チユが不安げに訊ねると、フレッドがすかさず振り返って、得意満面に鼻を鳴らした。

「ご心配なく、お嬢さん! そんな時のために……じゃじゃーん!」


「『超・フレジョ式 透明ブースター』作動中!」
「今、命名したけどな!」ジョージが補足する。


「これさえあれば、マグルなんかに見つかるわけないんだぜ? 完璧にカモフラージュってやつよ」


やがて、車が町の灯りの中へと差しかかる。
住宅街の上空を低く飛びながら、ジョージが道を確認しつつつぶやいた。


「……あれだ。あの角の家」


カーテンの隙間から、わずかに灯りが漏れている。
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