第10章 決闘クラブ、開催
「蛇が、君にそんなことを話したの?」と、ロンが力なく繰り返した。
「それが、どうかしたの?」とハリー。「ここにはそんなことできる人、掃いて捨てるほどいるでしょ?」
「……それが、いないんだよ」ロンの声は、ひどく低かった。
「パーセルマウスっていうのは、珍しい魔法使いにしかできない能力なんだ」ロンが言った。「君が蛇と“話した”って聞いたみんなは、そりゃあ……驚くさ」
「何がまずいんだよ?」ハリーの声が、すこし鋭くなる。
「僕が蛇を止めなきゃ、マズかったのはみんなのほうじゃないか。攻撃しそうだったんだよ?」
「へぇ、君は“止めた”のかい?」ロンが、少しだけ言葉を選ぶように言った。
「……どういう意味?」ハリーが眉をひそめた。
「君たち、そこにいたじゃないか。僕が言ったこと、聞こえたでしょ?」
ハーマイオニーがそっと言葉をはさんだ。
「…聞こえなかったの。ハリー、あれ、蛇語だったのよ」
「え?」ハリーはぽかんと口を開けた。「僕、英語で話してたよ?そうだろ、チユ?」
チユは、戸惑いながらも、ゆっくりと首を振った。
「わからなかったよ……ごめん。でも、ハリーの表情で、止めようとしてるのだけは、わかった」
ハリーは黙り込んだ。
「問題になるわね」
ハーマイオニーがようやく口を開いた。
声はひどく低く、まるで誰かに聞かれるのを恐れているかのようだった。
「なぜかというと、サラザール・スリザリンも蛇と話せたの。彼は“パーセルマウス”として有名だったのよ」
チユが目を瞬いた。
「だからスリザリンの紋章って、蛇なの?」
ハーマイオニーはうなずく。
ハリーは黙っていた。ポカンと口を開けたまま、まるで世界の裏側に突然放り込まれたような表情だった。
「つまりさ…」と、ロンがぽつりと呟く。「今ごろ、学校中が君のこと、スリザリンの玄孫(やしゃご)だとかなんとか言い出してるかもな」
「でも、僕は違うよ」
「そうね。でも、それを証明するのは、ちょっと難しいの」ハーマイオニーが言った。
チユが静かにハリーの方を見つめた。
「ハリーが継承者じゃないって、わかってるよ。きっと、みんなも話せばわかってくれるよ……」
そう言ったものの、みんながハリーを信じてくれるかどうかは、自信がなかった。