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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第10章 決闘クラブ、開催



スネイプがマルフォイのもとへすっと近づき、腰を折って耳元で何かを囁いた。
声は聞こえなかったが、その直後のマルフォイの顔を見れば、内容はだいたい想像がつく。

あの、あからさまなニヤニヤ笑い。


(絶対ろくなこと教えてない……)


チユは内心むっとしながら、となりでロンの体に絡まった縄を解いていた。
自分がさっきかけた呪文の威力が思ったより強かったらしく、ロンはまだ腕をぐるぐる回している。


「許されざる呪文とかだったりして」と、ロンが小声でつぶやいた。

「それは、いくらなんでも先生としてダメじゃない?」


チユもひそひそ返したけれど、心の中ではちょっぴり「あり得るかも」と思っていた。


そんな中、ハリーは頼りなさそうにロックハートを見上げていたが――やっぱり期待は裏切らなかった。ロックハートは明るく肩をポンと叩く。


「ハリー、さっき私がやったようにやるんだよ!」


案の定、ハリーは戸惑った顔をして小さく返す。


「……え?杖を落とすんですか?」


でも、ロックハートはもう聞いちゃいなかった。
そのとき――。


「いーち、にーい、さーん、それっ!」


ロックハートの朗々とした号令とともに、ハリーとマルフォイが杖を突き出す。

ぱちん、と空気が弾ける音がした。


マルフォイの杖の先から黒く細長い何かが噴き出し、空中をにょろにょろと泳ぐようにして――ドスン、と大広間の床に落ちた。


蛇だった。


チユは、自然に小さく息をのんだ。
その蛇は即座にハリーのほうへ身体をくねらせ、鎌首をもたげて威嚇を始めた。まるで、ここが自分の縄張りだと言わんばかりに。


「動くな、ポッター」


スネイプの声が、氷のように冷たく響いた。


ハリーは――まったく動かない。

その場に立ったまま、蛇とまっすぐに視線を交わしていた。
警戒しているわけでも、戦おうとしているわけでもない。ただ、じっと。


「いったい、何をしてるのハリー……」



蛇は、誰にも飛びかかることなく、その場でハリーと目を合わせたまま、ゆらゆらと身体を揺らしている。


その奇妙な光景に、チユの背筋にじんわりと冷たいものが這い上がってくる。


まるで、ハリーと蛇が、会話しているみたいだった
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