第10章 決闘クラブ、開催
スネイプがマルフォイのもとへすっと近づき、腰を折って耳元で何かを囁いた。
声は聞こえなかったが、その直後のマルフォイの顔を見れば、内容はだいたい想像がつく。
あの、あからさまなニヤニヤ笑い。
(絶対ろくなこと教えてない……)
チユは内心むっとしながら、となりでロンの体に絡まった縄を解いていた。
自分がさっきかけた呪文の威力が思ったより強かったらしく、ロンはまだ腕をぐるぐる回している。
「許されざる呪文とかだったりして」と、ロンが小声でつぶやいた。
「それは、いくらなんでも先生としてダメじゃない?」
チユもひそひそ返したけれど、心の中ではちょっぴり「あり得るかも」と思っていた。
そんな中、ハリーは頼りなさそうにロックハートを見上げていたが――やっぱり期待は裏切らなかった。ロックハートは明るく肩をポンと叩く。
「ハリー、さっき私がやったようにやるんだよ!」
案の定、ハリーは戸惑った顔をして小さく返す。
「……え?杖を落とすんですか?」
でも、ロックハートはもう聞いちゃいなかった。
そのとき――。
「いーち、にーい、さーん、それっ!」
ロックハートの朗々とした号令とともに、ハリーとマルフォイが杖を突き出す。
ぱちん、と空気が弾ける音がした。
マルフォイの杖の先から黒く細長い何かが噴き出し、空中をにょろにょろと泳ぐようにして――ドスン、と大広間の床に落ちた。
蛇だった。
チユは、自然に小さく息をのんだ。
その蛇は即座にハリーのほうへ身体をくねらせ、鎌首をもたげて威嚇を始めた。まるで、ここが自分の縄張りだと言わんばかりに。
「動くな、ポッター」
スネイプの声が、氷のように冷たく響いた。
ハリーは――まったく動かない。
その場に立ったまま、蛇とまっすぐに視線を交わしていた。
警戒しているわけでも、戦おうとしているわけでもない。ただ、じっと。
「いったい、何をしてるのハリー……」
蛇は、誰にも飛びかかることなく、その場でハリーと目を合わせたまま、ゆらゆらと身体を揺らしている。
その奇妙な光景に、チユの背筋にじんわりと冷たいものが這い上がってくる。
まるで、ハリーと蛇が、会話しているみたいだった