第10章 決闘クラブ、開催
ハーマイオニーが、ぴしっとチユの視線をとらえて、わずかにうなずいた。
…合図だ!
すぐに、ハリーが姿勢を低くして鍋の陰へ滑り込んだのが見えた。
ポケットから、フレッドとジョージから貰った「フィリバスター長花火」が現れる。
(お願い、ちゃんと爆発してね……!)
チユは大鍋をかき混ぜながらも、鼓動がドクドクとうるさく鳴っていた。
その時――
「シュウゥゥ……ッ、パチパチッ!」
細く鋭い音が地下牢に響き始めた。
ロンが息を呑み、チユも反射的に身をすくめる。
そして次の瞬間――
「バンッ!!」
激しい音とともに、花火が大きく弾け、色とりどりの火花が薬鍋のあいだを乱れ飛んだ。
ひとつは薬瓶に飛び込んで、小さな爆発音とともに橙色の煙を噴き出した。
「いったい誰だッ!!!」
スネイプ先生の声が雷鳴のように轟いた。
(やった……!でも、急いで、ハーマイオニー!)
チユは緊張で手が汗ばんでいるのを感じながら、ぐつぐつ音を立てる鍋の奥で、ハーマイオニーがそっと研究室のほうへすり抜けていくのを見つけた。
とにかく、これが失敗したら、ただでは済まない。
スネイプ先生の視線が、いつこっちに飛んでくるかと思うと、もう背中がピシピシに硬くなりそうだった
飛び散った火の粉のひとつが、ゴイルの鍋の中へ ポチャン と飛び込むのが、チユの視界の端に見えた。
「……あ」
次の瞬間、ゴイルの薬鍋がズドン!!と爆発した。
鈍い破裂音とともに、どろどろの液体が空中へ舞い上がり、それはまるで悪夢のスープのように、クラス中へ雨のように降り注いだ。
「ぎゃああああああっ!!!」
悲鳴と混乱が入り混じる中、チユは目の前の光景に思わず息をのんだ。
クラッブの顔に薬のしぶきがべっとりと落ちた――と思ったら、
その顔が、ぼよん、ぼよん と風船のようにふくらみ始めたのだ。
「なっ、なにが――っ」
クラッブが叫ぼうとするたびに、その声はどんどんこもっていき
ついにはぷっくりと腫れた頬に口が埋もれて、何を言っているのかわからなくなった。
「ふふ……」
いや、笑っちゃダメ、でも、でも……とチユは唇を引き結び、必死で目をそらす。
ゴイルに至っては、鼻の穴がまるで大皿のように広がり、両手で顔を覆ってうずくまっていた。