第10章 決闘クラブ、開催
「煎じ薬、あと半分で完成だって……」
ロンが囁くと、ハーマイオニーが「ええ、しかもあと2つ、難解が残ってる」と顔をしかめた。
「二角獣の角と、毒ツルヘビの皮……でしょ? どっちも、スネイプの……個人棚……」
声に出しただけで、チユの胃がきゅうっと縮んだ。
あの棚には、陰気と危険が詰め込まれている気がする。
「スネイプ先生の研究室に忍び込めるかな?」
「でも、やらなきゃ完成しないわ」
ハーマイオニーの返事は、氷のように冷静だった。
「私が取りに行く。あなたたち3人は騒ぎを起こして、先生を引き止めて。5分でいいの」
「ねえ……もし、見つかったらどうするの……?」ハリーが恐る恐る尋ねる。
「その時は――」
ハーマイオニーは言いかけて、ふっと笑った。
「謝るしかないわね」
「謝って済む訳がだろ!?あのスネイプだぞ!?」ロンが声を荒らげた。
それから計画を実行するべく、地下の魔法薬室に向かった。
階段を下りきるころには、チユの指先は少し冷たくなっていた。寒さのせいか、緊張のせいか――たぶん、両方。
そして、スリザリンとの合同授業の扉が開く。
いつものように湿っぽい空気。いつものように冷たい石の床。
だけど、今日は何かが違う。自分たちは、少し危ない橋を渡ろうとしている。
チユは深呼吸をひとつして、自分の席についた。
(失敗しませんように……)
それだけを、心の中で何度も唱えた。
授業は、いつもと変わらない様子で始まった。
地下牢の重たい空気の中、スネイプが黒いローブを引きずって歩き回っている。
机の上には正体不明の乾いた葉やら、どろっとしたものが詰まった瓶。
今日は「膨れ薬」をつくるらしい。
(ふつうにやるだけでも難しいのに……今日は“あれ”があるんだもんね)
ちらりと隣を見ると、ハリーは明らかに集中できていない様子だった。
スネイプに「水っぽい」と冷たくあしらわれても、反応がワンテンポ遅れていた。
ロンは小声で「言いがかりだぞ……」とつぶやいていたけど、隣のドラコはしたり顔でニヤつきながら、こっそりフグの目玉を投げてきている。
それがロンの鍋の縁にぴちゃっと当たって、ぷるぷる跳ねた。
怒りが湧き上がる前に、チユはすぐ視線を前に戻した。
下手に動けばスネイプの餌食になるのは目に見えている。