第2章 秘密の夏休み
隠れ穴に着いた日は、夏の風が窓のカーテンをそっと揺らしていた。
「チユ!ようこそ、来てくれたわ!」
モリー・ウィーズリーが満面の笑みで迎えてくれた。
彼女の抱擁はどこか包み込むようにあたたかくて、胸の奥に沈んでいた不安を少しだけ溶かしてくれるようだった。
「ありがとう、モリーおばさん……少しだけ、お世話になります」
「何言ってるの、ゆっくりしていってちょうだい。リーマスのことなら心配いらないわ。あの人、ちゃんと自分で自分を守れる人よ。でも…きっと寂しがってるわね」
「……うん」
にこりと笑ってみせたものの、チユの胸の内は、まだ少しだけざわついていた。
その夜、ウィーズリー家の居間。
夕食を終えたあと、フレッドとジョージ、それからロンがソファに並んで腰掛け、チユもその中に座っていた。
「で、どうしたの?顔に“なんか気になってる”って書いてあるぞ」
フレッドがひょいと身体を乗り出して言った。
「リーマスのことも……あるけど、実はハリーのこともちょっと……ねえ、ハリーから何か連絡、あった?」
ロンは眉をひそめた。「いや……相変わらずだよ」
「実は僕たちも気になっててさ」
ジョージが頷く。「だから言ってたんだよね、様子見に行くかって」
「でも、どうやって行くつもりだったの?まさか歩いてじゃないよね?」
チユが半分冗談めかして言うと、フレッドとジョージが同時にニヤリとした。
「お父さんの“車”があるじゃないか」
「ま、空飛ぶやつだけどな」
「えっ……! ほんとに行くの?」
「行くとも。友達が困ってるかもしれないなら、放っておけないだろ?」
フレッドが片目をウィンクさせながら笑った。
「もちろんチユも来るだろ?冒険にお姫様がいないなんて、つまらないからな」
チユは一瞬だけ迷って、それからゆっくり頷いた。
「……うん。私も、行く。ハリーが元気なのか、ちゃんと見ておきたいから」
夜風が、窓の外を吹き抜けていく。
こうして、小さな“遠征隊”がひっそりと結成されたのだった。