第10章 決闘クラブ、開催
一方で、校内では魔よけや護身用のアイテムの売買が密かに活発化していた。
ネビルは不気味な青い玉ねぎや紫色にとがった水晶、さらには腐ったイモリの尻尾まで買い集めていた。
「君は純血なんだから狙われるはずがない」とからかわれても、ネビルの顔はこわばるばかりだ。
「最初に狙われたのはフィルチだ」と震える声で告げる。
「それに、僕がスクイブだってみんな知ってるんだ」
12月の2週目――
朝の大広間に、マクゴナガル先生がパリッと糊の効いた巻物を手に現れた瞬間、空気が少しだけ引き締まった。
「クリスマス休暇中、学校に残る生徒の名前を記入すること」
先生の声は相変わらず無駄がない。
チユは名簿にペン先を走らせながら、隣のハリーたちと視線を交わした。
誰も何も言わないけれど、考えていることは一緒だ。
(計画を実行するなら……休暇中しかない)
チユは、名簿に自分の名前を書いたあと、ほんの少し、ペン先を持ったまま動けなくなっていた。
インクが紙にじわりと染みていくのを、ぼんやりと見つめながら、心のどこかが、ぎゅっと縮む。
リーマスに寂しい思いをさせてしまう――
先週届いた手紙には、いつもどおりのやわらかな文字で『クリスマス休暇に帰ってくるのを楽しみにしてるよ』と書かれていた。
その下には、いつものようにさりげなく添えられた――『君がいてくれると、家が暖かくなる』――なんて、チユの胸をふわっとくすぐる言葉も。
(でも……私、帰れない)
自分の字を見つめながら、チユは小さく唇を噛んだ。
このホグワーツで、やらなきゃいけない事が自分にはあるのだ。
「……リーマスには、あとでちゃんと手紙で謝ろう」
自分に言い聞かせるように呟くと、少しだけ胸の重さが和らいだ気がした。
きっとリーマスは、自分のいない暖炉の前で、さびしく目を伏せるんだろう。
そんな姿を想像してしまって、チユはそっと顔を伏せた。
怒ってくれたら、少しは気持ちも楽なのに。