第10章 決闘クラブ、開催
ハリーが医務室を出たのは、ちょうど朝の光がホグワーツの塔に差し込む頃だった。
けれど、チユがそれを知ったのは、ほんの少し後のことだった。
女子トイレの小部屋――例の「嘆きのマートル」のトイレに、チユたちはもう何時間もこもりっぱなしだった。
便座の上には大鍋、床には分厚い魔法薬の本が開きっぱなしで、足元にはハーマイオニーが灯した魔法の青い火がパチパチと静かに燃えている。
チユはその火に手をかざしていた。じんわりと温かく、でもどこか落ち着かない。
ふいに、扉が軋む音がして――
「僕だよ」
ガチャ、とドアが開いた。聞き慣れた声。ハリーだった。
チユはびくっとして顔を上げた。
火の揺らめきの向こうに、ぐったりとした疲れ顔のハリーが立っていた。
「ハリー!ああ、驚かさないでよ!」
ハーマイオニーが慌てて立ち上がる。
「腕は……ちゃんと、生えたの?」
チユは自然と一歩、前に出ていた。
「うん。まあ、たぶんね。もう、ぐにゃぐにゃじゃないから大丈夫……だと思う」
へにゃっと笑ってみせるハリーに、3人とも少しだけ笑った。
「ごめん、見舞い行けなくて。先にポリジュース薬、やらなきゃってなって……」
チユが言うと、ハリーは首を振った。
「ううん、気にしないで。ちょっと寂しかったけどね」
そのときだった。ハリーの目が急に真剣になった。
「……みんな、ちょっと聞いて。大事な話なんだ」
ぎゅうぎゅうの小部屋の中、空気がぴたりと張りつめた。
「コリンが……やられたんだ」
「……え?」
チユは一瞬、聞き間違いかと思った。
「昨日の夜、医務室の廊下で……カメラを抱えたまま、完全に石にされてたらしい。朝になって見つかったって」
「うそ……」
チユは口元を押さえた。コリンの、あのくしゃっと笑った顔と、パシャパシャと写真を撮る姿が頭に浮かぶ。
「マクゴナガル先生は、“また”だと確信してる。で、ロックハートが“私に調査させてください!”って張り切ってたけど、先生、無言で睨んでたよ」
ハリーが小さく苦笑した。でも、笑いはすぐ消える。
「最低だ、マルフォイのやつ……」
ロンが低くうなった。
「クィディッチで負けて腹いせにやったって思っても、おかしくない」