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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第9章 英雄と狂ったブラッジャー



「この子は休息が必要なんですよッ!!」
彼女の声がビシィと響いた。全員がぴたりと動きを止める。

「骨を33本も再生させてるんですからね!?出ていきなさい、出なさい、今すぐに!」


ハリーが「えっ……」と口を開きかけたが、もう誰も逆らえなかった。


フレッドとジョージが「はいはい、撤収〜!」と陽気に言いながらも、きっちり耳を引っ張られていた。


「お大事に、ハリー! 腕なくすなよー!」
「またな!夢に出そうなダイブだったぜ!」


チユたちも、名残惜しさを胸に医務室を後にした。
しっとりと濡れた廊下を歩きながら、ロンがぽつりとつぶやいた。



「……で、あれって、ほんとに骨、生えるのか? あの薬で」


「たぶん」
チユは小さく答えた。自分でもそう信じたかったし、そう信じているように聞こえてほしかった。


「大丈夫よ。マダム・ポンフリーは――優秀ですもの」
ハーマイオニーが少しだけ早口になって言い切ると、すかさずロンが口を挟んだ。

「じゃあつまり、ロックハートは優秀じゃないって認めたわけだ?」


その瞬間、ハーマイオニーはぴたりと黙った。


グリフィンドールのタペストリーをくぐり抜け、暖炉の火が揺らめく談話室を横切って、女子寮の階段をのぼると、部屋の中はしん……と静まりかえっていた。

カーテンを引き、チユは自分のベッドに身を沈める。布団の感触がじんわりと背中に染みてきた。


誰の声も聞こえない。雨音も、いまはもう遠い。


(ハリー……早く、元気になりますように)


祈るような気持ちでまぶたを閉じると、瞼の裏には、空から落ちてきたハリーの姿と、ぐにゃりと曲がった腕、それでもスニッチをしっかり握りしめていた手の映像が、焼きついたままだった。
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