第9章 英雄と狂ったブラッジャー
ようやく水を飲み終えたハリーは、ぐったりと枕に沈み込みながら言った。
「とにかく……僕たちは勝ったんだよね」
ロンの顔が一気に明るくなった。
「勝ったよ!すっっごいキャッチだったぞ、あれ!最後のダイブ、マルフォイの顔ったら……最高だったな!」
「ていうか、あのブラッジャーに、マルフォイがどうやって細工したのか知りたいわね……!」ハーマイオニーが険しい顔でつぶやく。
「質問リストに加えておくといいよ」
ハリーが枕に顔を埋めながらぼそっと言った。
「ポリジュース薬を飲んで、スリザリン生に化けたときに聞く質問にさ……」
「その薬の味が、さっきのよりマシだといいんだけど……」
ハリーがぽつりとつぶやくと、
「スリザリンの連中のかけらが入ってるのに?冗談言うなよ」
ロンが即ツッコミを入れた。
――そのときだった。
バンッ!
医務室のドアが勢いよく開き、びしょぬれで泥だらけのグリフィンドール選手たちが、次々と駆け込んできた。
「ハリー!!」
「生きてるか!? すごかったぞ!!」
ハリーのベッドの周りにどっと人が集まり、空気が一気に明るくなる。
選手たちの顔には、泥だらけでもはっきりわかる笑顔と、誇らしさがにじんでいた。
チユ、ロンとハーマイオニーは少しだけ後ろに下がって、それを見ていた。
ハリーはたしかに危ない目にあった。
でも、それだけのものをみんなに残していったんだ。そう思うと、なんだか胸がぎゅっとあたたかくなった。
そして彼女はそっと、心の中でつぶやいた。
(ほんとに……かっこいいよ、ハリー)
そのうち、誰かが持ってきたケーキの箱が開き、かぼちゃパイやチョコチップクッキー、バタービスケットが次々と広げられ、かぼちゃジュースの瓶まで配られ始めた。
「パーティかよ……」
ロンが言いながら、しれっとビスケットを手に取る。
ハリーのベッドの周りは、まるで寮の談話室みたいな賑わいに。
ただひとつ違ったのは、中央にいる“英雄”が、片手でクッキーをつかむのに四苦八苦していたこと。
と――
ドン! ドン! ドン!
怒りの足音が近づき、医務室のドアがもう一度、開いた。
現れたのは、マダム・ポンフリー。ポケットには包帯がぎっしり詰まっている。