第9章 英雄と狂ったブラッジャー
やがて、マダム・ポンフリーが戻ってきた。手にはずっしり重たそうな瓶。ラベルには大きな字で、きっちりこう書かれていた。
「骨生え薬・スケレ・グロ」
(……ぜったい、おいしくない……)
チユは瓶から立ちのぼる湯気を見て、直感的にそう思った。
「さあ、今夜はつらいですよ」
マダム・ポンフリーが言いながら、湯気の立つ液体をビーカーになみなみと注ぎ、ズイッとハリーの枕元へ突き出した。
「さあ、飲んで。ぜんぶ」
「……ほんとに、これ飲むんですか?」
ハリーは顔をひきつらせてビーカーを見つめていた。まるで爆発する毒薬でも渡されたみたいに。
「飲まなければ一生ゴム腕のままですけど?」
マダム・ポンフリーがぴしゃりと言い放つ。
ハリーは助けを求めるようにロンを見た。
でもロンは、見てはいけないものを見たように、そっと視線を逸らす。
ハーマイオニーは腕を組んで無言でうなずいた。
チユは……ただ祈るような気持ちで、ハリーの横顔を見つめていた。
「骨を再生するのは荒療治ですからね」
マダム・ポンフリーは念押しするように言った。
そして、それは言葉通りだったようだ。
ハリーがスケレ・グロをひと口飲んだ瞬間――
「ぶふっ! げほっ、ごほっ……ッ!!」
口の中が焼けるような辛さだったのか、喉がひりついたのか、とにかくハリーはむせて咳き込み、ベッドでバタバタとのたうった。
「やっぱり毒じゃないのこれ!?」
ロンがあわてて水を差し出し、チユがタオルでハリーの口元を拭く。
マダム・ポンフリーは「ったく……あんな危険なスポーツ……」とぶつぶつ文句を言いながら、ローブの裾をひるがえして医務室の奥へ引っ込んでいった。
「まったく、能無しの先生なんて雇うからこうなるのよ……」
(その通りですマダム……)
チユは心の中で全力でうなずいた。