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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第9章 英雄と狂ったブラッジャー



泥のピッチを、4人でゆっくりと歩き始めた。
ロンがときどき「大丈夫か?」「気を確かに!」と声をかけ、ハーマイオニーはやけに真剣な顔で、「手当てされるまでが試合です!」と言い切っていた。


チユはその少し後ろから、そっとハリーの背中を見守っていた。
泥にまみれたローブ、傾いた肩、そしてぶらんぶらん揺れる腕――見ているだけでこっちが痛くなりそうだった。


「俺たちの棍棒が、もうちょっと長かったらな……」
ジョージがぼそっとつぶやいた。

「次は改造しとこう。あと、ロックハートが来ないようにする呪文もな」
フレッドの言葉に、ロンが「それ早く開発してくれ!」と即座に反応し、チユは思わずくすっと笑った。


けれど、そんな笑いも、医務室の扉を開けた瞬間に吹き飛んだ。


「まっすぐ私のところに来るべきでした!」


マダム・ポンフリーが雷のような声で怒鳴った。
4人はぴたりと動きを止めた。


ぶんぶんと振り回されるように、マダム・ポンフリーがハリーの右腕――いや、“骨の抜けた哀れな袋”を持ち上げる。


「骨折ならあっという間に治せます。でも、骨を一から“生やす”となると……時間も手間もかかるんです!」


「せ、先生……できますよね?」
ハリーがかすれ声で聞くと、マダム・ポンフリーはズイと顔を近づけてきた。


「もちろん、できますとも。でも、痛いですよ。とても、ね」


その一言に、ハリーの顔から血の気が引いていった。


「はい、これに着替えて」


バサッと投げられたパジャマをなんとかキャッチし、ハリーはロンの手を借りてゆっくりと更衣室のカーテンの中に入った。


ハーマイオニーとチユはその外で待機する。


「ハリー、これでもロックハートの肩を持つつもりか?え?」
ロンの声が、カーテン越しに聞こえてきた。

「頼みもしないのに骨抜きにしてくれるなんてさ!」


「誰にだって間違いはあるわ」
ハーマイオニーが少しむっとして返す。


「それに、もう痛みはないんでしょう?ハリー?」


「うん、痛みはないよ。そのかわり、感覚もないけどね」
ハリーの声は心なしか投げやりだった。


カーテンの隙間からチユがそっと覗くと、パジャマを着たハリーがベッドに寝転がり、骨のない右腕がぺたぺたとはためいていた。

まるで意志を持ってない生き物みたいに。

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