第9章 英雄と狂ったブラッジャー
「やめて……聞きたくない……」
ハリーが情けない声でうめいたちょうどその時――
「カシャッ!」
すぐそばで、はっきりと聞こえたシャッター音。
全員がぎょっとしてそちらを見やると、コリン・クリービーが、どこからともなくカメラを抱えて立っていた。
「今の、最高に劇的だったよハリー! 泥の中でスニッチ握ってる姿、もうほんと感動……」
「やめて、コリン!!」
ハリーが叫び、ロンと双子が同時に立ち上がる。
「カメラ下ろせ。じゃないと、命にかかわるぞ」
フレッドが警告する。
「いや、でもこれは記録だから! 歴史の1ページとして……」
「じゃあ、お前の歴史に載せる前にカメラを泥の中に埋めるぞ」
ジョージが穏やかな口調でとんでもないことを言ったので、コリンは慌ててカメラをかかえて一歩下がった。
そのタイミングで、またもやロックハートが、なぜかドヤ顔で戻ってきた。
「さあさあ、どいたどいた! 」
彼はハリーのそばにしゃがむと、袖をまくり、にこにこ顔でハリーに向かって手を伸ばした。
「心配はいらん、ハリー。ちょちょいと治してあげよう」
「やめて、お願いやめて。ほんとにやめて」
ハリーが全力で懇願するような顔をするが、ロックハートは聞いていない。
「よーし、ささっと直してあげるぞ!」
チユとロンが止めに入ろうとしたがひと足遅かった。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ハリーの顔が真っ青になった。
「――えっ……あれっ……あれ!? 僕の、腕……?」
チユが思わずのぞき込むと、ハリーの右腕は――
「ぐにゃぐにゃ……!?」
「きっと骨が、ないんだわ!!」
ハーマイオニーが叫んだ。
ハリーの右腕が、風船のようにぺこぺこと揺れていた。
「なんということでしょう!」
ロックハートは一歩下がって口元に手を当てる。「……骨を“消す”呪文になってしまったか……ハハハ……まぁ、治療のバリエーションには富んでいるということで!」
「では、ハリー、医務室まで気をつけて歩いていきなさい」ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、ミス・クローバーも付き添っていってくれないかね?……マダム・ポンフリーが、その……少し処置してくれるだろう」
ハリーは、ぐにゃぐにゃになった右腕をだらりとぶらさげたまま、どこか遠い目をしていた。