第2章 秘密の夏休み
「しばらく、隠れ穴に泊まりに行っておいで。モリーは大歓迎していたよ」
「え?」
「……今週末が満月なんだ」
…もうすぐ満月。ゼロも、大丈夫かな
ふと、そんな考えがよぎった。
ゼロ・グレイン――リーマスと同じ、人狼の少年。
その身体の秘密も、彼が普段見せようとしない苦しみも、ほんの少しだけ垣間見たことがある。
でも――
チユはそっと視線をリーマスに戻す。
(今は……この人のことが、いちばん心配)
「少し、体調が落ちてくる頃でね。誰かがいてくれるのは、もちろん心強いんだけど……君に見せたくない姿もあるんだよ」
チユは思わず口を開きかけて、でも飲み込んだ。
それでも、目が揺れているのをリーマスは見逃さなかった。
「ねえ、私……傍にいたいよ。ちゃんと手伝えるかわかんないけど……でも、1人にしておくほうが心配なの。私、怖がったりなんかしないよ」
声は小さかったけれど、言葉のひとつひとつが真っ直ぐだった。
リーマスはしばらくチユを見つめていた。
何かを言いかけて、けれどその先の言葉を飲み込むように、目を細めて静かに微笑んだ。
「……ありがとう。君がそう言ってくれるのが、どれだけ嬉しいか……本当に、言葉にならないくらいだよ。でもね、君が無理をするのは、僕が一番望まないことなんだ」
彼の笑顔には、やさしさと、ほんの少しの哀しみが混じっていた。
目の下の影は、いつもより濃く、くっきりと浮かんで見えた。
チユは唇を噛んでから、ゆっくりと頷いた。
「……じゃあ、行ってくる。ウィーズリー家、きっとまた賑やかなんだろうな」
「ああ、皆大歓迎だろう。フレッドとジョージは、また君をからかうかもしれないけど」
「ふふっ、あの子たちに会うと、ちょっと元気になるよ」
そう言って笑ったが、胸の奥には少しだけ重たいものが残っていた。
出発の朝、チユはリーマスの前に立って、ほんの少しだけ迷ったあと、彼にそっと腕を回した。
リーマスは驚いたようだったが、すぐにその細い肩を包むように抱き返してくれた。
「いってきます……」
「気をつけてね、帰ってきたらまた沢山話を聞かせてくれ」