第9章 英雄と狂ったブラッジャー
(……なに、それ……!?)
ハリーはすかさず急降下してよけ、今度はフレッドが怒ったように強打して、マルフォイへ向けて打ち返した。
けれどまた、ブラッジャーはふらふらと曲線を描いて、まるで磁石にでも引き寄せられるように、再びハリーを追いかけてきた。
ハリーはスピード全開で逃げる。
ピッチの反対側へ、風を裂いてビュンビュン飛ぶ。あとを追うブラッジャーのビュウビュウという音が、観客席にまで響いてきた。
「ちょ、ちょっと待って! ブラッジャーって、そんなピンポイント攻撃するやつだっけ!?」
クィディッチのルールはあまり詳しくないチユでも、それがおかしいことはすぐにわかった。
「いいや、おかしいよ。普通なら、できるだけ多くの選手をふっとばそうとするのがブラッジャーのはずなのに――まるでハリーだけを執拗に狙っているみたいだ」
ロンが顔を真っ青にする。
ピッチの向こうで、またも、フレッドが構えていた。
全身の力を込めて、ブラッジャーをぶっ飛ばす。ハリーは身をひるがえしてよけ、ブラッジャーは方向を変えた――かに見えた。
「やっつけたぞーっ!」
フレッドが誇らしげに叫ぶ。
でも、チユはその直後、ふたたびブラッジャーがハリーに向かっているのを見てしまった。
「えっ、うそでしょ!?」
狂ったように、まるでハリーの背中に吸い寄せられるように、ブラッジャーが戻っていく。
ハリーは息もつかせぬ全速力で飛び続け、フレッドとジョージがそのすぐそばで、棍棒をブンブン振り回しながらガードに入っていた。
ハリーのすぐ横で飛ぶ双子の姿は、もう何が起きてるのかも見えないくらい速くて、チユにはただ、空中で赤いローブの腕が振り回されているのがちらちら見えるだけだった。
(お願い……ハリーも、2人も、無事でいて……!)
雨が降り出した。太い大根のような雨粒が容赦なく空から叩きつけ、チユはローブのフードをぎゅっと握った。
そのとき、上からリー・ジョーダンの声が響く。
「スリザリン、リードです!60対0!」
「っ、まだ大丈夫……きっと、これから……!」ロンの声は震えていた。