第9章 英雄と狂ったブラッジャー
チユは、観客席の上段からじっとフィールドを見下ろしていた。
ロンとハーマイオニーは2人とも落ち着かない様子でそわそわしている。
やがて、グリフィンドールの選手たちがピッチに登場すると、観客からどよめきが湧き上がった。
わあっ、と自然に声が出る。赤いローブが風を切って並ぶ姿は、なんだか少し眩しかった。
レイブンクローもハッフルパフも、みんなスリザリンが負けるところを見たくてたまらない様子。
あちこちから応援の声が飛ぶなかで、スリザリンの生徒たちのブーイングが鋭く混ざっていた。
「……あっ」
チユの目が止まった。ピッチの中央で、フレッドとジョージが並んで立っている。
2人とも、表情はいつもと違って真剣そのもの。
マダム・フーチの指示で、フリントとウッドが握手する――というより、にらみ合いながら手をつぶし合ってるみたいだった。
試合開始の笛が鳴る直前、チユは胸の前で手をそっと重ね、声にならない声で祈った。
そのとき、ふいに空を見上げたジョージが、ちらっとこちらに視線を向けた気がした。
ほんの一瞬、目が合った気がして、チユはびくっとした。
(気のせい……かな?)
でもそのあと、彼がニッと笑ったように見えたのは、たぶん――たぶん、本当。
少し前までは、フレッドとジョージの見分けなんてまるでつかなかった。
どっちもそっくりで、どっちもふざけてて、どっちもやたらと元気で。
なのに今では、遠くからでも見分けがつくようになっていた。
ワーッと湧き上がる歓声に押し上げられるように、14人の選手たちが鍋色の空へ一斉に舞い上がった。
赤と緑のローブが空にひるがえり、金の閃きがぴゅっと走る。ハリーは誰よりも高く飛び、スニッチを探して四方に目を凝らしていた。
その瞬間、黒くて重たそうなブラッジャーが、ハリーめがけてものすごい速さで突進してきた。
チユの心臓が、キュッと音を立てる。
「っ……!」
ハリーは間一髪でかわしたものの、髪がぶわっと逆立つほどの距離。
見ているこっちの胃がひっくり返りそうだった。
ジョージが棍棒を握って、すさまじい勢いでブラッジャーに向かう。
すれ違いざまに力強く棍棒を振りぬいて、スリザリンの選手に狙いを定めて打ち返した。
だけどブラッジャーは、変な軌道を描いてまたしてもハリーへ向かっていった。
