第9章 英雄と狂ったブラッジャー
土曜日の朝、チユはいつもより早く目を覚ました。
まだカーテンの向こうは薄暗くて、部屋の中も静まりかえっている。ベッドの中でしばらくぼんやりしていたけれど、心臓のどこかがそわそわして落ち着かない。
(……今日は、クィディッチの試合だ)
チユはゆっくり起きあがり、身支度を始めた。試合に出るわけじゃないのに、自分まで緊張してしまうのは、きっとハリーが出場するからだけじゃない
今日の相手がスリザリンだからだろう。
最新モデルの競技用箒を揃えた、いかにも「金の力で勝ちをもぎ取ります」なチーム。
階段を降りて大広間に向かうと、グリフィンドールの選手たちはすでに集まっていた。
長テーブルの端に固まって、朝食を囲んでいる。でも、その手はほとんど止まっていた。
チユはそっとその様子を見つめていたけれど、すぐにジョージが気づいて、ひょいっと手をあげた。
「おや、こんな朝早くに天使が舞い降りたぞ」
「お守り代わりに、今日もその笑顔、ちょっと貸してくれる?」
フレッドがおどけた顔でウインクしてくる。
「今日の勝利はお姫様の応援次第だ!」と、ジョージもにっこり。
「うん、ちゃんと応援するから、スリザリンをこてっぱんにしてきてね!」
そう言ったチユに、ジョージはにっと笑って目線を合わせた。
「ああ、もちろんだとも!今日こそスリザリンに一泡吹かせてやるよ!」
「終わったら祝勝会は姫の笑顔で乾杯だ!」
試合開始が近づき、生徒たちは次々とクィディッチ競技場へと向かいはじめた。
空はどんよりと重く、蒸し暑い空気が肌にまとわりつく。雨が降りそうな、嫌な感じ。
競技場へ向かう生徒たちの波に紛れながら、チユもロンやハーマイオニーと一緒に移動した。ハリーはもう更衣室へ向かっていたけど、途中でロンが慌てて駆け出した。
「ハリー、がんばれ!ぶっ飛ばしてやれよー!」
「幸運を祈るわ!」
ハーマイオニーの声に、チユも小さく拳を握った。
「……ハリー、落ちたら絶対受け止めるからね……!」
「ちょっと、怖い事言わないでよ…!」
ハリーの声が少し笑い混じりに返ってきた。