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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第9章 英雄と狂ったブラッジャー




「こんなに複雑な魔法薬、初めて見るわ」
ページを食い入るように見つめながら、ハーマイオニーが感心したように言う。


「クサカゲロウ、ヒル、満月草にニワヤナギ……」
材料のリストを指で追いながら、ぶつぶつと唱えるその姿は、どこか楽しそうですらあった。



チユはというと、横からそっと覗き込みながら考えていた。
(ヒルって飲むのかな…つぶすのかな……やだな……やっぱりやだな……)


魔法界の薬作りは、いつだって胃に優しくない。



「うん、ここまでは簡単ね。生徒用の材料棚にあるはずだから、自分で勝手に取れるわ」
ハーマイオニーが、ページを指で追いながらサクサクと材料を読み上げる。



チユも横から覗き込む。
「簡単?これが……?」


「――あ、でも見て。二角獣の角の粉末」
ハーマイオニーの指が止まった。

「これ、どこで手に入れればいいか分からないわね……それから、毒ツルヘビの皮の千切り。これも、生徒用の棚には絶対ないわ……」



そして、ハーマイオニーの口からさらっと、とんでもない一言が。



「それに、当然だけど、変身したい相手の一部も必要よ」



「なんだって!?」
ロンがすかさず叫んだ。目が見開いて、口まで開いてた。

「どういう意味だよ、変身したい相手の“一部”って。クラッブの爪とか入ってたら、絶対飲まないからな!」



チユも、心の中で静かにロンに同意した。



でもハーマイオニーは、そんなこと気にも留めていないようで、冷静にページをめくりながら続ける。

「それは最後に入れるものだから、まだ心配しなくていいわ」



ロンは信じられないという顔でハリーを見たが、ハリーの心配はまた別の方向だった。

「ハーマイオニー…盗まなきゃいけないもの、どれだけあるか分かってる?無理だよ、絶対うまくいかないって……」



ハリーが不安そうに言うと、ハーマイオニーは本を「パタンッ」と音を立てて閉じた。


「そう。おじけづいて、やめるって言うなら、別にいいわ」


その言い方は、ちょっと寂しそうで、でも、すごく真剣だった。


「私、本当は規則なんて破りたくないの。でも――マグル生まれの生徒が、あんなふうに脅されてるのよ」


チユは、思わず息を呑んだ。


(……そっか。ハーマイオニーは、ただ知りたいんじゃない。誰かを守りたくてやってるんだ)
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