第9章 英雄と狂ったブラッジャー
数分後、戻ってきた彼女の手には、大きくてカビ臭そうな、皮の表紙の本が一冊。
慎重にそれを抱えたハーマイオニーが、宝物のようにそれを鞄に滑り込ませる。
4人は目配せをし合うと、なるべく平静を装いながら、図書館をあとにした。
「大成功ね」ハーマイオニーがささやく。
「うん、まさかロックハートが役に立つとはね……」ハリーが苦笑した。
「役に立ったっていうか……利用したって感じだけど?」
チユが小さく笑い、ロンが吹き出しそうになるのをこらえた。
5分後、4人はまたしても、嘆きのマートルのトイレにいた。
ロンは「まさかまたここかよ……」と情けない声を上げていたが、ハーマイオニーはさっさと却下した。
「まともな神経の人は、こんな場所に絶対来ないわ。だからプライバシーは完璧よ」
理屈はごもっとも。
マートルは今日も自分の個室で大泣きしていた。
泣く、というより――わめく、という表現のほうが正確かもしれない。
パイプが共鳴して、どこからともなくマートルの「もう誰も私を気にかけないのねえええええ!」という叫びがこだましていた。
しかし、4人は完全無視。
マートルもまた、彼女たちのことなど気にしていない様子で、自分の情緒に夢中だった。
ハーマイオニーは、持ってきた分厚い古びた本――『最も強力な魔法薬』を慎重に開いた。
シミが広がったページには、ちょっと見ただけでも「これはヤバそう」と思える内容が並んでいる。チユはごくりと喉を鳴らした。
ページには、いくつかぞっとするような挿絵もあった。
内臓が外側に飛び出してひっくり返った人の絵や、頭からニョキニョキと腕が何本も生えている魔女の絵。
チユは顔をしかめて、そっと視線をそらした。
「わ、あったわ!」
ハーマイオニーが声を上げ、「ポリジュース薬」とタイトルのついたページを指さす。そこには、誰かに変身していく途中らしい人物の挿絵が描かれていたのだが――その顔が、ひたすら苦しそうだった。
「これ、ほんとに作るの?」チユが小さな声で尋ねると、ハーマイオニーはきっぱりとうなずいた。
その横でロンは、「あの絵、夢に出てきそうだ……」とつぶやき、ハリーは「あれ、あくまで描いた人の想像だよね?想像であってくれ……」と心の底から願っているようだった。