第9章 英雄と狂ったブラッジャー
ハーマイオニーは紙を受け取ると、もたもたしながらそれを丸め、鞄に滑り込ませる。
その間に、ロックハートはハリーに顔を向けた。
「で、ハリー。明日はシーズン最初のクィディッチの試合だね? グリフィンドール対スリザリン。君はなかなか有望な選手だって聞いてるよ」
「は、はあ……」
「私もね、かつてはシーカーだったんだ。ナショナル・チーム入りの誘いも受けたものさ! だが私は、闇の魔力を根絶するという使命に人生を捧げる道を選んだ。だがもし軽く個人レッスンが必要なら、いつでも呼んでくれたまえ。君のような選手には、ぜひ私の経験を伝えたいからね!」
「え、あ……ど、どうも……」
ハリーは喉の奥からあいまいな音を出すと、そそくさと4人は教室を出た。
「……信じられないよ、僕たちがなんの本を借りるのか、見もしなかった」
図書館へ向かいながら、ハリーがやや呆れ顔で言った。
「ほんとに自分のことしか見えてないんだから」ロンは首を振る。
「むしろ、サインしたくてウズウズしてたよね。きっとあの羽根ペンを見せびらかしたかったんだよ」チユがぽつりと口を挟んだ。
「それでも、ちゃんと借りられるんだから結果オーライよ」ハーマイオニーが胸を張る。
「ロックハートに、学年で最優秀生って言われたからって、ちょっと浮かれてない?」
「浮かれてないわよ!」ハーマイオニーはちょっとだけ顔を赤らめた。
図書館に入ると、一行は一気に声をひそめた。そこにはマダム・ピンスの冷たい空気が漂っていた。
痩せぎすで怒りっぽく、まるで飢えたハゲタカのような司書だ。
「『最も強力な魔法薬』?」マダム・ピンスは疑わしげに眉をひそめ、ハーマイオニーの手から許可証を取ろうとした。
だが、ハーマイオニーは紙を渡そうとしない。
「こ、これ、私が持っていてもいいでしょうか……?」息を弾ませながら聞く。
「やめときなよ」ロンが小声で言って、ハーマイオニーの手からすっと紙を奪い取った。
「はい、先生。サイン、ちゃんとしてます。ロックハートですからね、サインするってだけなら、止まってるものにでもしちゃう人です」
マダム・ピンスは眉を吊り上げたまま、紙を光に透かして厳しく検査した。
全員が内心ドキドキしていたが――
彼女はついにツンと背を伸ばし、奥の書棚へとすっと歩いていった。
