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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第9章 英雄と狂ったブラッジャー



ピクシー小妖精の悲惨な大暴れ事件以来、ロックハートは教室に「生き物」を持ってこなくなった。
代わりに、自分の著書の抜粋を読み上げては、劇的な場面を“熱演”して見せるのが恒例となった。

――そして当然、その“相手役”に選ばれるのは、ほとんど毎回ハリーだった。


これまでハリーが無理やり演じさせられた役はというと



「おしゃべりの呪い」をかけられた農夫。
鼻風邪をひいた雪男。
ロックハートに敗れて以来、レタスしか食べられなくなった吸血鬼。



……などなど、屈辱のオンパレード。



今日の「闇の魔術に対する防衛術」の授業でも、ハリーは案の定、ロックハートに前へ引っ張り出された。
今回の役は「村人を襲う凶暴な狼男」またか、と言いたいところだったが、今日はある“計画”のため、ハリーは渋々従った。


「ハリー!もっと大きく吠えて! そうそう、狂気に満ちた目で睨んで!」


ロックハートは得意げに杖を構え、朗々と自分の武勇伝を語り始めた。


「さあ!私は恐れず飛びかかった!こうして相手を床に叩きつけ――片手で押さえ込み!そして、もう片方の手で杖を喉元に……ッ!」



(……演技、長い……)



チユは、後ろの席から机に突っ伏しながら、目を細めていた。
「これって授業……なのかなぁ……」


ハリーはというと、棒立ちのまま、うめき声を出すのをすっかり忘れていた。
ロックハートの「複雑な異形戻しの呪文」の説明が終わる頃には、観客(つまり生徒たち)は完全に夢の中へ旅立っていた。



「――というわけで、私はその村の英雄として、今もなお讃えられているのです!」


ようやく終業のベルが鳴り、ロックハートは誇らしげに胸を張った。


「さて、今日の宿題は!
“ワガワガの狼男がいかに私に敗北したか”について、詩を書きなさい!
一番よく書けた生徒には、私のサイン入り『私はマジックだ』を進呈!」


(誰が欲しがるの……)
教室中に冷たい沈黙が流れたのは、言うまでもなかった。

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