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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



「フィルチが、まだ見張ってるかも」
ロンが声を潜めて言った。


「戻ろう……」
チユが言うと、ロンもすぐにうなずいた。


「うん。あいつに見つかったら、また“足音が怪しかった”とか言って罰則だぞ」


「私、もう少し見てから行くわ」
ハーマイオニーが立ち止まったまま、メモ帳を取り出して壁の文字をじっと見つめている。

「……もう完全に謎解きモードだ」
チユが呆れたように笑うと、ロンも肩をすくめた。


「ちょっと調べよう」


ハリーはそう言うと、鞄をその辺に放り出し、四つん這いになって床を這い始めた。
いつもよりも熱心で、ちょっと危なっかしい。


「焼け焦げだ! あっちにも、こっちにも――」


指先で床をなぞりながら、ハリーは興奮気味に声を上げた。


「来てみて! 変だわ……」


ハーマイオニーが低い声で呼びかけた。チユはハリーと顔を見合わせ、小走りでそちらに向かう。


壁の文字のすぐ脇にある古びた窓。
その一番上のガラス板を、ハーマイオニーが指さしていた。


そこには、小さな割れ目からクモが――

しかも、ぞろぞろと、まるで合図でもあったかのように、20匹以上のクモがガザガザと音を立てて、糸を登って逃げ出していっていた。



「……クモがあんなふうに行動するの、見たことある?」
ハーマイオニーが、眉をひそめてつぶやいた。


「ううん」
チユとハリーが揃って答える。
「ロン、君は?――ロン?」


ハリーが振り返ると、ロンは廊下の真ん中でぴたっと固まっていた。
どこか顔色が悪く、見ていて気の毒になるくらい、引きつった笑みを浮かべている。


「……ロン?」

「ぼ、僕……クモが好きじゃない」
ようやく絞り出した声は、今にも泣き出しそうだった。


「えっ、知らなかった」
ハーマイオニーが振り返り、少し驚いたように目を丸くした。
「だって、魔法薬でクモの足とか平気で扱ってたじゃない?」


「それは……死んでるからだよ! 死んでるのはいいの!」

ロンは、窓の方に視線を送らないように細心の注意を払いながら、力説する。

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