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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



魔法史の授業――ビンズ先生が、いつも通りノートを開き、低く単調な声で「ぶううううん……」と読み上げを始めた瞬間、教室の空気が一気に重くなる。

チユは腕を組み、机に頬をのせながら目を閉じた。



(……これはもう眠りの呪文みたいなものだよね)



そう思いながら、彼女はすでに半分夢の中だった。



前の方の席では、ハーマイオニーが背筋を伸ばして熱心にノートをとっていた。
ロンは書くふりをしながら羽根ペンでハリーの耳をつついていたし、ハリーは目を細めながらその手を払いのけている。



だけど、チユにはそれら全部が、もう遠くの出来事のように思えた。



──ウトウト……。


ぼんやりとした頭の中に、暖炉の前のうとうとした午後や、クッションの柔らかさ、ホットチョコレートの匂いが浮かんでは消えていく。

それが現実だったのか、夢だったのか、もうわからない。
とにかく眠い。とてもとても眠い。


そのとき。


「先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか」



ハーマイオニーのはっきりした声が教室の空気を裂いた。
一瞬、ざわめきが走った――が、チユの耳にはほとんど届いていなかった。



(……ひみつの……何だっけ……?)



薄目を開けて周囲を見ると、皆がビンズ先生を見つめていた。
どうやら、あの「壁の血文字」の件に繋がる話らしい――ということは、どこかで勘が働いたけれど、チユはただ、「ふわぁ……」と小さくあくびをして、再び机に額を預けた。


気づけば、夢の中で誰かが歌を歌っていた。
羽根の生えた猫と追いかけっこしてる夢だったかもしれない。


こうしてチユは、「秘密の部屋」の伝説が語られるその瞬間、見事にスルーして夢の世界をさまよっていた。


当然ながら、その後、教室を出たチユはロンたちの話にさっぱりついていけなくなるのだった。

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