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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



「そんなこと気にするな。僕、あいつ、ちょっとまぬけだって思ってたよ」
ロンは羊皮紙に大きめの字で宿題を書きなぐりながら言った。

「だってさ、ロックハートが偉大な魔法使いだとか――そんなバカみたいなこと真顔で言ってたじゃないか」


「そうだよ。あの人の話を信じる時点で、ちょっと……」
チユは気の抜けた声でつぶやいた。

「それに、あの子って"あやしい人ランキング"があったら、ロックハートと一緒に上位に入りそうなタイプだったもん」


そのときだった。
書棚のすき間から、もふっとした髪がぴょこっと飛び出た。


「『ホグワーツの歴史』、全部貸し出されてるの」



ハーマイオニーがイライラした顔で現れた。
けれど、少なくとも今日は話す気はあるらしい。


「しかも、あと2週間は予約でいっぱい。自分のを家に置いてきたのが悔やまれるわ……。あのときはロックハートの本ばっかりでトランクがパンパンだったから、仕方なかったんだけど」


「ロックハートに負けたんだね、『ホグワーツの歴史』……」チユが小声でつぶやくと、ハーマイオニーは耳まで赤くなった。


「で、なんでその本が欲しいの?」ハリーが首をかしげる。

「秘密の部屋について、ちゃんと調べたいのよ」ハーマイオニーは即答した。


ロンが巻尺を握りしめていた手をぷるぷると震わせながら口を開いた。
「なあハーマイオニー……君の作文、ちょっとだけ見せてくれない?」

「だめ。見せられないわ」
返事は即答だった。


「提出までに10日もあったじゃない。なにしてたの?」


ロンは絶望的な目で自分の羊皮紙を見下ろした。
「あとたった6センチ足りないんだけどなぁ……」

「ロン、それ、“あと1メートル”だったとしても言ってたでしょ」
チユは小さく笑って肩をすくめた。


その瞬間、図書館の鐘がカーン、と静かに鳴った。


「ベルだ、授業!」
ハリーが立ち上がり、あわてて荷物をまとめた。

ロンとハーマイオニーは早足で廊下に出ていく。その背中を見ながら、チユはちらりと口を開いた。


「あーあ、寝ながら学べる魔法とかあればなぁ」


誰も返事はしなかったが――ロンの肩が、確かに笑って揺れていた。
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