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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



一方その頃――

ハーマイオニーはというと、いつも以上に本の世界へ没頭していた。

もともと読書に長い時間を費やすのは彼女の習性だったが、ここ数日はさらに極端だった。
授業が終われば図書館へ直行し、談話室でも常に何冊かの本に囲まれている。


チユが話しかけても上の空で、答えは「あとでね」か「ちょっと待って」
何を調べているのかは分からなかったが、少なくとも何か大事な調べ物だということだけは、チユにもなんとなく伝わっていた。


いったい彼女が何を調べているのか――それがわかったのは、次の水曜日のことだった。


魔法薬の授業のあと。
スネイプに呼び止められてひとり残されたハリーを図書館で待っていると、隣の椅子が重く沈んだ。


「やっと終わったよ……スネイプのやつ、僕にだけフジツボの掃除をさせてさ」
チユが顔を上げると、疲れきった顔のハリーがぐったりと座っていた。


「それは、ご愁傷さま……」


チユが小さく笑うと、ハリーも苦笑いを返した。


「くっそ、あと20センチ足もりない……」ロンが羊皮紙をぐいっと広げて、巻尺と格闘しながらぼやいた。

魔法史のビンズ先生の宿題は「中世におけるヨーロッパ魔法使い会議」について1メートルの長さの作文を書くことだった。


「ハーマイオニーなんか、もう1メートル40センチも書いてるらしいよ、よくそんなにも書けるよね」


チユはさっき諦めて投げ出した羽根ペンをちらっと見ながら言った。
彼女の羊皮紙には「中世の魔法使いたちは」という行だけがぽつんと書かれていた。

魔法史というだけで眠くなる。
すでに3回、頭が机に落ちかけた。



「ねえ、それよりさ――」
ハリーが、ふと真剣な声になった。


「今、ハッフルパフ寮のジャスティンとすれ違ったんだ。でも……僕の顔見たとたん、逃げてった」
ロンとチユが顔を見合わせた。


「逃げた?」

「うん。まるで僕が“石にした”みたいに思ってる感じで」


チユは言葉に詰まった。ハリーは怒ってもなければ、悲しんでもいなかった。ただ、困っているように見えた。


「あいつ、多分ちょっとびびってるだけだよ。特に今は、誰でも疑心暗鬼になってるから」

ロンのその言葉に、チユは静かにうなずいた。
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