第8章 血文字の警告
それから数日間、ホグワーツはまるで「事件現場の中」にでもなったかのようだった。
ミセス・ノリスが石にされた事件は、どこへ行っても話題になっており、生徒たちは昼食中も廊下を歩くときも、あの血文字についてヒソヒソと話していた。
フィルチはというと、まるで犯人がもう一度現れるのを待ち構えているかのように、事件現場をぐるぐると巡回していた。
ある日の昼下がり、チユはフィルチが血の文字を必死にこすっているのを目撃した。
けれど、その文字はまるで石に染み込んだかのように、消えることはなかった。
それがまた、生徒たちの不安を煽っていた。
そして、その不安は、チユの身近な誰かにも影を落としていた。
「…ジニー、また食べてないだろ?」
グリフィンドールの談話室、暖炉の前の長椅子で膝を抱えていたジニーに、ロンが声をかけた。
ジニーは何も言わず、小さく首を振った。
ロンは一瞬、困ったように眉をひそめたが、すぐに声をやわらげた。
「ミセス・ノリスのこと、気にしてるんだろうけどさ。あんな猫、怒ってばっかりだったんだぜ?いないほうが――」
「ロン!」
チユがすかさず横から制した。
ロンは「いや、冗談!」と両手を上げた。
「…ごめん。ジニーが無類の猫好きっての、忘れてた」
「ジニー」
チユは、ゆっくりと言葉を探しながら話しかけた。
「ダンブルドアが言ってたよ。ミセス・ノリスは死んでないって。きっと、元に戻る。少し時間がかかるかもしれないけど、絶対に」
「……本当に?」
「うん。信じよう」
チユはやさしく微笑んだ。
ジニーの唇がわずかに動いて、「……ありがとう」と小さくこぼしたとき、その目には、ほんの少しの光が戻っていた。
――入学当初、1人で塞ぎ込んでいたあのチユが、いま、誰かの心にそっと寄り添っている。
その様子を、階段の上からひょいと顔を出して見ていた双子の兄たち――フレッドとジョージは、眉をひそめながらひそひそと会話していた。
「見たか、まるで聖母だな」フレッドが言った。
「いや、むしろフェニックスの涙の様な癒やし力」ジョージが返す。
「やばいな。こりゃ、ジニーも虜になる日が近いぞ」
2人はいつもの調子でふざけあっている。
でもその目には、妹を気にかける兄としての優しさが、ちゃんとにじんでいた。