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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



チユは、ほんのすこしだけ首を縦に振った。


「平気だよ。でも、今日は……変な夜だった」
言葉を絞るようにしてそう言うと、ゼロの隣のソファに腰を下ろした。


「“秘密の部屋”って……本当にあったんだね」


ぽつりとゼロが言った。
チユは彼の横顔を見つめた。


「ねえ、ゼロは部屋の存在を知ってた?」

「うん、噂くらいだけど」


チユは難しい顔をして、ちょっと首をかしげた。
「でもさ、部屋が開いたら誰か困るの?ただの、古い部屋なんでしょ?」


その無邪気な問いに、ゼロは少しだけ目を細めて、チユの顔を見た。


「僕も詳しくはないけど……」
ゼロは静かに口を開いた。

「秘密の部屋は、ホグワーツを創った4人のうちの1人――サラザール・スリザリンが作ったって言われてる。彼の“真の後継者”だけが開ける場所らしい」


「じゃあ……開いたってことは、その後継者が現れたってこと?」
チユの声がわずかに震えていた。


「あの文字が本物だとしたら、そういう事になるかもしれないね」


ゼロはそう答えると、ただ暖炉の火を見つめた。
ぱち、ぱちと薪がはぜる音だけが、部屋に響いた。

やがて、彼は静かに息を吐く。



「君が、あそこにいたのを見たとき――なんか、嫌な予感がしたんだ。変な言い方だけど」


「どうして?」


「うーん……君、よく、そういう真ん中にいるじゃない。何かが起きる場所に」


「騒ぎに巻き込まれるの、得意みたい」


チユが苦笑すると、ゼロも小さく笑った。


「君が何に巻き込まれたとしても、僕は――君の味方でいるよ」


チユは、ふっと息を吐いた。
暖炉の明かりが彼女の頬をほんのり照らしている。


「……ありがとう、ゼロ」


その夜――
チユは少しだけ、悪い夢を見ずに眠れた。
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