第8章 血文字の警告
「僕たち、疲れたので……ベッドに行きたかっただけです」
しばらくの沈黙の後、ハリーがそう答えた。
「夕食も食べずにか?」
スネイプの頬がわずかに引きつり、冷たい笑みが浮かぶ。
「ゴーストのパーティで、生きた人間にふさわしい食べ物が出るとは思えんがね」
「僕たち、空腹じゃなかったんです」
ロンがあわてて言ったその直後――
ゴロゴロゴロ……
ロンのお腹が、見事なタイミングで音を立てた。
チユは思わず、手の甲で口を押さえる。
笑いじゃない。咄嗟に出た息を飲み込んだのだ。
でも、スネイプは見逃さない。
「ポッターがすべてを正直に話しているとは思えません。真実を語る気になるまで、相応の措置を取るべきかと。たとえば、クィディッチ・チームから外すなど」
その言葉に、チユは反射的に足を一歩前に出しかけた。
でも、マクゴナガル先生の声が、鋭く空気を切った。
「その必要は見当たりません。証拠はありませんから」
そして、ダンブルドアの静かな一言。
「疑わしきは罰せず、じゃよ、セブルス」
ようやく、空気が動いた。
でもフィルチは、まだその場に置き去りにされていた。
「うちの猫が石にされたんだ! ノリスが……!」
「アーガス、ミセス・ノリスは……治せますぞ」
ダンブルドアがやわらかく言う。
「スプラウト先生が育てているマンドレイクが充分に成長すれば、彼女を蘇生させる薬が作れるじゃろう」
「お任せください! 私にかかれば、マンドレイク回復薬など朝飯前です!」
ロックハートが朗々と名乗りを上げた。
「私など、100回は作りましたからね! 眠っていたってできますよ!」
「……おうかがいしますがね」
スネイプが冷たく返す。
「この学校の魔法薬学の担当は、あくまで私のはずですが」
――しん、とした。
チユはその空気の重さに、思わず足元を見つめた。
誰もが、口を開くべきか迷っていた。
「……帰ってよろしい」
ついに、ダンブルドアが口を開いた。
その瞬間、ハリーたち――そしてチユも、全員が待ってましたとばかりに立ち上がる。
走りはしなかったが、その一歩手前の速さで足を動かし、部屋を後にした。