第8章 血文字の警告
「2年生がこんなことをできるはずがない」
ダンブルドアの声は低く、しかし断固としていた。
「最も高度な闇の魔術をもってして、ようやく……」
「でも、あいつがやったんだ。あいつに決まってる!」
フィルチは吐き捨てるように叫んだ。
「あいつは……あの文字を読んでた!あいつは……あのとき、私の部屋で……」
チユはフィルチの言葉が途切れた瞬間、息をのんだ。
「私が……できそこないの『スクイブ』だって、知ってるんだ……!」
フィルチは絞り出すように言い、ふらつくように椅子に腰を下ろした。
重い沈黙が、部屋を満たした。
チユは胸の奥がちくりと痛んだ。フィルチは苦手だが、これは、あんまりだと思った。
「僕、ミセス・ノリスに指一本、触れてません!」
ハリーが、声を張った。
「それに……スクイブって、なんなのかも知りません!」
その声には怒りよりも、困惑が混ざっていた。
チユはそっとハリーを見た。
その顔には、無数の視線が突き刺さっていた。
壁の写真のロックハートまでもが、気まずそうにこちらを見ているようだった。
「校長、一言よろしいでしょうか」
スネイプの声が、ひやりとした空気を切り裂いた。
チユの背筋がぞくりとした。
スネイプがハリーに味方するなど、見たことがない。
「……ポッターもその仲間も、ただ間が悪くその場にいただけかもしれません」
そう言いながらも、スネイプの口元には冷笑が浮かんでいた。
「しかし、一連の状況は無視できません。なぜ、3階の廊下にいたのか?なぜ、パーティには来ていなかったのか?」
ロンとハーマイオニーが同時に息を吸い、慌てて説明を始める。
「絶命日パーティに……招待されてて……ニックが……証明できると思います……!」
「ふむ、ではなぜ、パーティのあとにあの廊下へ向かったのですかな?」
スネイプの目がろうそくの灯りを反射して、ギラリと光った。
「それは……」
ハリーが口を開いた。
けれどその先が続かない。
何かを迷っている顔――いや、恐れている顔。
チユは、彼が“声”のことを言うべきか迷っているのだと気づいた。
でも、それを言えば……みんなはどう思うだろうか?
チユは、ふいに自分の喉がひりついているのに気づいた。