• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第8章 血文字の警告



ロックハートの甲高い声が、静まり返った部屋に割って入った。

「呪いにちがいありません!たぶん“異形変身拷問”の呪いでしょう。何度も見たことがありますよ。いや〜、私がその場に居合わせていたらぴったりの反対呪文を――」


「どうせ唱えられないくせに……」


チユは、小さくつぶやいたが、ロックハートには届いていないようだった。
彼はうっとりと自分の話に酔いしれていた。


部屋の隅、椅子に座ったフィルチは、肩を震わせてしゃくりあげていた。
まるで魂ごとしぼり出すような泣き声だった。

チユは胸の奥がチクリと痛んだ。
これまで何度となく怒鳴られ、小言を言われてきたけれど、チユは初めて、彼に同情した。


ダンブルドアはミセス・ノリスのそばに立ち、何か不思議な呪文をブツブツとつぶやくと、杖でそっと猫の額に触れた。

けれど、何も起きなかった。


ミセス・ノリスは、やはり板のように硬直したままだった。


「ふむ……これは、非常に似ていますね。そうそう、あれはウグドゥグで起きた一連の事件です――」


ロックハートがまた得意げに話し始める。


「私の自伝にも書いてあります。町中の人々に魔よけを授け、たった一晩で事件は収束したんですよ!」



壁に掛かった何枚ものロックハートの写真が、本人の話に合わせて一斉にうなずいていた。


(……うそばっかり)


チユは思ったが、声には出さなかった。
出す必要もなかった。ロックハートの言葉に誰も反応していなかったから。


ダンブルドアが静かに体を起こし、低く穏やかな声で言った。



「アーガス、猫は――死んでおらんよ」


その言葉に、ロックハートが慌てて口をつぐんだ。


「し、死んでない?」
フィルチの声が震える。

顔を覆ったまま、彼は指の間からミセス・ノリスをのぞき見た。



「じゃあ……じゃあ、なんでこんなに……こんなに硬くて冷たいんだ?」

「石になっただけじゃ」


ダンブルドアの言葉に、ロックハートがすかさず口をはさむ。


「まったくその通りだと思っておりました!」


「だが……なぜそうなったのか、まだ分からん」
ダンブルドアがそう言いかけた時――


「だったら、あいつに聞いてくれ!」


フィルチが突然、鋭い声で叫んだ。
彼の指が震えながら、ハリーを――そしてチユたちを指していた。
/ 300ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp