第8章 血文字の警告
「なんだ、なんだ?何事だ!」
マルフォイの大声に引き寄せられるように、人混みをかき分けてやってきたのはフィルチだった。
その目が、ぶら下がったミセス・ノリスをとらえた瞬間、フィルチの顔がみるみる蒼白に変わる。
「わ、わたしの猫だ……!」
フィルチは喉を裂くような声で叫ぶと、恐怖に顔を歪め、思わず手で顔を覆った。
「ミセス・ノリス……!何が……!」
震える手を伸ばしながら、彼はふらふらと猫のそばへ近づいていく。
そして次の瞬間――フィルチの目が、鋭くハリーに向けられた。
「お前だな……!」
その声は、今度は怒りで震えていた。
「お前が……お前が、私の猫をやったんだ……!ミセス・ノリスを殺したのは、お前だ!!」
「アーガス!」
その叫びをさえぎったのは、ダンブルドアの声だった。
校長は数人の教師を従えて、重々しく現場に到着していた。
た。
フィルチをかばうようにミセス・ノリスに歩み寄ると、松明の腕木から猫の体をそっとはずす。
「アーガス、一緒に来なさい。……それから、君たちもおいで」
チユは、ぎゅっと拳を握りしめたまま、うなずいた。心臓が、さっきからずっとバクバク鳴っていた。
そこへ、ロックハートが得意げに飛び出してくる。
「校長先生、私の部屋が一番近いですぞ!すぐ上ですよ、どうぞお使いください!いえいえ、光栄ですとも!」
「ありがとう、ギルデロイ」
ダンブルドアの静かな言葉に促され、教師たちがロックハートのあとに続く。人垣が無言で左右に割れ、彼らに道を譲った。
マクゴナガル、スネイプも後ろにつづく。
ロックハートの部屋に足を踏み入れたとたん、壁の写真たちがバタバタと動き出した。
ロックハート本人の写真が、カーラーを巻いたまま慌てて物陰に隠れていく。
だが誰も、それに気を留める余裕はなかった。
本物のロックハートが机にろうそくを灯し、そっと身を引く。
ダンブルドアは、冷えた空気の中、ミセス・ノリスの体を静かに机の上へ横たえ、慎重に調べ始めた。
チユは、ハリーたちと並んで壁際に立ち、ろうそくの光が届かないその影の中で、ただじっと見つめていた。
なにか、とんでもないことが始まってしまった気がしてならなかった。