第7章 死者たちの晩餐会
チユは凍りついたようにその場に立ち尽くした。
目の前の光景が、現実のものとは思えなかった。
「ここを離れよう」
ロンが小さな声で言う。
「でも……助けてあげなきゃ……」
チユがか細く言う。猫の姿があまりにも痛ましく、目を背けたくても背けられなかった。
「ダメだ。僕の言うとおりにして」
ロンの声は低く、普段の彼らしくないほど固かった。
――だが、もう遅かった。
廊下の奥から、ざわざわとした足音と話し声が近づいてくる。
ハロウィーンパーティを終えた生徒たちが、楽しげにこちらへ向かってきていた。
そして、次の瞬間。
大勢の生徒たちが廊下に雪崩れ込み、前方にぶら下がった猫の姿を見た瞬間――
喧騒がぴたりと止まった。
沈黙の波が、ぞわりと広がっていく。
生徒たちは口を閉ざし、押し合いながらも猫の周囲へと群がっていった。
その中で、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてチユの4人は、廊下の真ん中にぽつんと立っていた。
まるで、自分たちが犯人かのように。
チユはごくりと喉を鳴らし、息を詰めるようにして後ろへ一歩下がった。
そのとき――
「継承者の敵よ、気をつけよ!次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」
誰かの叫び声が沈黙を破った。
マルフォイだった。
人垣を押しのけるようにして前へ進み出た彼は、壁の文字を読み上げ、にやりと不気味に笑う。
目は異様に輝き、頬には興奮の赤みが差していた。
ぶら下がったまま、ぴくりとも動かない猫を見上げながら――
その笑みは、喜びに近いものだった。
チユは嫌な予感が胸の奥で膨らみ、息をするのも忘れそうだった。
そのとき、不意に――
視線の先、群れの外れのほうで一際目立つ姿が目に入った。
ゼロ・グレインだった。
遠くからこちらを見ていた。
マルフォイのように叫び声を上げるでもなく、他の生徒のように猫に群がるでもなく、ただ静かに、こちらを見ていた。
まるで、騒ぎの中にいるチユを見失うまいとするように。
チユの胸の奥で、何かが少しだけ震えた。
だけど、それを確かめる前に――次の怒声が響いた