第7章 死者たちの晩餐会
今度は、ほとんど首無しニックが人混みをかき分けて、ふわふわとこちらにやって来た。
「楽しんでいますか?」
そう聞かれて、チユたちは全員そろって「はい」と嘘をついた。
「ずいぶん集まってくれました」
ニックは誇らしげに目を細めた。
「“めそめそ貴族夫人”はケントから来てくれたんですよ……さて、そろそろ私のスピーチの時間です。オーケストラの準備を――」
そのときだった。
突如、角笛の音が高らかに響きわたり、オーケストラの不協和音はぱたりと止んだ。
地下牢の空気がぴんと張り詰め、誰もが一斉に音のする方を振り向く。
「ああ、始まった……」
ニックが苦々しげにつぶやいた。
壁をすり抜けて現れたのは、十二騎の幽霊の馬たち。
それぞれ首のない騎手を乗せていて、拍手喝采の中をダンスフロアへ駆けてきた。
先頭の騎手は、自分の首を小脇に抱え、その口が角笛を吹いている。
馬から飛び降りると、群衆の上に首を高く掲げ、誇らしげに見せびらかした。
チユはその様子に思わず目を丸くした。
首が……手で持たれているのに、ちゃんと喋って笑っているなんて。
その騎手が、にっこりと笑いながらニックに近づいてきた。
「ニック!元気かね?首はまだ……ぶら下がっておるのか?」
肩をパンパン叩きながら高らかに笑う。
「ようこそ、パトリック」
ニックは冷えた声で応じた。
「おや、生きてる連中じゃないか!」
パトリック卿は、チユたちを見つけると、わざと大げさに飛び上がった。
その拍子に、首がぽーんと宙に舞い、床に転がる。
周りの幽霊たちはどっと笑った。
「まことに愉快ですな」
ニックの声には、明らかに棘があった。
「首無し狩りクラブに、まだ入れてもらえないのを気にしてるんだな!」
転がったパトリック卿の首が床から叫ぶ。
チユは、隣に立つニックの表情をちらりと見上げた。
その顔には、ちょっと傷ついたような、複雑な気配が浮かんでいた。
(……ニック、かわいそう)