第7章 死者たちの晩餐会
「私、本気で言ったんじゃないのよ。私、気にしてないわ。あの子が――……あら、こんにちは、マートル」
ハーマイオニーの声が、不自然に跳ねた。
その先に、ずんぐりとした小柄な女の子のゴーストがふわりと近づいてくる。
チユは思わず身をこわばらせた。
髪はぼさぼさの猫っ毛で、分厚いメガネの奥に、どんよりした目が沈んでいる。
「なによ?」
マートルが、仏頂面で言った。
チユはすぐに分かった。
――この子が、“嘆きのマートル”
「お元気?」
ハーマイオニーが明るく取り繕いながら声をかけた。
「トイレの外でお会いできて、うれしいわ」
マートルは鼻を鳴らす。
ピーブズがにやにやと近づき、ひそひそとマートルの耳にささやいた。
「ミス・グレンジャーがね、たった今キミの話をしてたってよぉ〜」
「それは――!」
ハーマイオニーが慌てて言い返す。
「あなたのこと、今夜はすてきだって言ってただけよ!」
マートルの目が細くなった。
「嘘でしょう……私のこと、からかってたんだわ」
喉を詰まらせるように言いながら、マートルのほおを銀の涙が滝のように流れ落ちていく。
チユは思わず、その場に立ち尽くした。
マートルの悲しそうな顔を見て、胸がちくりと痛んだ。
可哀想――そう思った。
ピーブズはというと、マートルの肩越しに、満足げな笑みを浮かべながら、けたけたと笑っていた。
「抜かしてたよ〜、“にきび面”ってのを〜」
ピーブズが耳元でささやくように言ったその瞬間。
「や、やめて……!」
チユの声が、小さく震えて漏れた。
だがもう遅かった。
マートルは苦しげにしゃくり上げながら、ぐるりと背を向けた。
そして、涙を飛び散らせるようにして、地下牢の奥へ――闇のほうへ、逃げるように消えていった。
ピーブズは、かびだらけのピーナッツを空中からマートルめがけてぶん投げ、「にきび面! にきび面!」と叫びながら、どこかへ飛び去っていった。
「なんとまあ……」ハーマイオニーが悲しそうに呟く。